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2017年10月23日更新

インフルエンザが早期発見できる高感度迅速検査装置の原理と簡易検査キットとの比較

富士フイルム社製の高感度インフルエンザ迅速検査装置「IMMUNO AG1」は、これまで難しかった発症初期のインフルエンザウイルスの検出も可能です。その特長や従来の簡易検査キットとの比較、メリットデメリットなどをまとめました。
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さまざまな感染症が流行りだすこれからの時期、急な高熱、頭痛や関節の痛みといった症状が出た時には、まずはインフルエンザかどうかが気になりますよね。

24時間で1個のウイルスが100万個に急増すると言われているインフルエンザウイルスは、身体の中でウイルスが爆発的に増える発症後48時間以内が勝負。

発症後、体内のウイルスがまだ少ないうちにタミフルやリレンザ、イナビルといった抗インフルエンザ薬を投与することで、ウイルスの増殖を抑え、症状の悪化を防ぐことができます。

そのため、少しでも早く陽性判定ができるようにと開発された最新の検査法が「高感度インフルエンザ迅速検査」です。

そこで今回は、高感度インフルエンザ迅速検査装置「富士ドライケム IMMUNO(イムノ) AG1」を例にとって、その特長や簡易検査キットとの違いなどをご紹介していきたいと思います。

1.「明日また来てください」を無くす!高感度インフルエンザ迅速検査装置の特長

現在、多くの病院で取り入れられているインフルエンザ判定のための「簡易検査キット(イムノクロマト法)」は、鼻の奥から綿棒でこすり取ったぬぐい液を採取するだけで手軽にでき、患者さんの負担も少ない有効な検査方法ですが、発症してから12時間ほど経過して体内のウイルスが増殖した後でないと、正確な判定ができません。

そのため、発症初期のウイルスが増殖していない段階では、インフルエンザの可能性が濃厚であっても検査結果が「陰性」となってしまい、抗インフルエンザ薬を投与できないというもどかしさがありました

そこで、もっと早い段階でインフルエンザの感染が分かるようにと開発されたのが、2011年に登場した「富士ドライケム IMMUNO AG1(超高感度イムノクロマト法)」というインフルエンザの検査システム。

精密化学メーカー「富士フイルム株式会社(FUJIFILM)」の製品で、「FUJIFILM  VALUE FROM INNOVATION インフルエンザ検査技術編」というテレビCMをご覧になってご存知の方もいらっしゃるのではないでしょうか?

「IMMUNO AG1」は、迅速診断キット(カートリッジ)と専用の分析装置を使用してインフルエンザウイルスの感染の有無を調べます。

この分析装置を使えば、簡易検査キットより早い発症初期の段階でインフルエンザの感染が分かります(発症後3~4時間後が多いが、2時間程度でも可能なケースも)。

発症初期にありがちな「ウイルスの増殖を待って、明日もう一度検査を受けてください」という二度手間を減らすことができるのです。

fuji_ag1

出典:インフルエンザ検査キット 町立辰野病院

※辰野病院では2015年から「IMMUNO AG1」を導入。インフルエンザ早期発見に役立てています。

(参考)FUJIFILM  VALUE FROM INNOVATION
こちらはテレビCMでもおなじみ「インフルエンザ迅速検査システム」についての紹介ページです。

2.スピード判定ができる理由。IMMUNO AG1の原理と検査方法

インフルエンザの早期発見に大きな可能性を持つ「IMMUNO AG1」。

どうしてスピード判定ができるのか、まずはその原理から見ていきましょう。

ウイルスを100倍に目立たせる!少ないウイルスでも発見しやすい

従来からある簡易検査キットによるインフルエンザウイルスの検出方法(イムノクロマト法)は、ウイルス(抗原)と判定部に塗った抗体を反応させる「抗原抗体反応(こうげんこうたいはんのう)」を利用しています。

ウイルス自体は透明なので、目印となる「金コロイド(金の微粒子がちりばめられた流体で赤い色素)」を結合させることでウイルスの有無を目視できるようにしています。(金コロイド法と言います)

それに対し、「IMMUNO AG1」は、同じように金コロイドをウイルスに結合させた後、そこに大量の銀の微粒子を付着させるというのが最大の特徴です。

フイルム写真の現像の際に使われる銀の増幅技術(小さな物質を大きな銀粒子に変える)を応用し、ウイルスと結合した金コロイドを約100倍の大きさにして目立たせることで、発症初期の少ない量のウイルスでも確認できるようにしました。

さらに判定は画像認識技術を応用した分析装置が自動で行います。そのため、目視に比べ、判定の誤差も格段に少なく抑えられ、精度もアップ。

富士フイルム(株)の技術資料によると、「IMMUNO AG1」を使用した場合の、発症後6時間以内のウイルス検出感度は84.6%、従来の簡易検査キットの69.2%に比べると15%ほど高くなっており、ウイルスを見つける感度が格段に高くなっていることが分かります。

高感度迅速検査しくみ

(引用)原クリニック インフルエンザ早期診断
※原クリニックでも「IMMUNO AG1」を導入し、インフルエンザの治療に役立てています。

(参考)JACRI 一般社団法人日本臨床検査薬協会 インフルエンザ
※こちらのページでは簡易検査キットの詳しい原理を解説しています。

(参考)富士フイルム 富士ドライケム IMMUNO AG1
※こちらのページではIMMUNO AG1の特長や仕様、技術資料などを見ることができます。

(参考)銀増幅技術による高感度インフルエンザ診断薬の開発
※高感度インフルエンザ診断薬ができた経緯や他の検査検査データを見ることができます。

「IMMUNO AG1」の検査方法

「IMMUNO AG1」の検査自体は最大で15分かかります。医師の診察から検査、判定は以下のような流れで行われます。(医療機関により多少の違いはあります)

①医師の問診

まずは医師による問診を行います。その際、患者さん本人の症状(発熱、頭痛、関節痛、咳や鼻水など)、発症後の経過時間などを確認します。周辺地域のインフルエンザの流行状況なども考え、インフルエンザの疑いがある場合は判定のための検査を行うこととなります。

但し、高感度インフルエンザ迅速検査装置を導入している医療機関でも、「発熱後10時間以上経過している場合は、ウイルス量の十分な増加を見越して簡易検査キットによる検査、10時間経っていない場合はIMMUNO AG1を使用」というように、独自のラインを設け、検査方法を使い分けている場合もあります。

進行具合によっては、従来通りの簡易検査キットによる判定となる場合もある事を理解しておきましょう。

 ②検体(ウイルス)を取り出す

検体を採取する方法は通常の簡易検査キットと同じです。専用の綿棒を鼻の奥に入れ、粘膜をこすりとった「鼻腔ぬぐい液」を使用します。

採取した検体を4滴、カートリッジに入れて装置にセットすると後は装置が自動で以下のように判定してくれます。

<強陽性反応>所要時間:検査開始~最短3分30秒

すでに体内でウイルスの増殖が進んでいているような場合は最短で3分30秒で強陽性反応が現れます。強陽性と分かった時点で検査は中断することができます。

※但し、強陽性反応が表れる程のウイルス量の時は、すでに発症から一定時間(12時間程度)が経過している事が多く、症状からもインフルエンザの予測ができるため、高感度迅速検査装置は使用せず、従来の簡易検査キットを使用する場合が多いようです。

<陽性反応>所要時間:検査開始~10分間

強陽性反応が表れなかった場合も10分間はそのまま検査を継続。この間にウイルスが感知されれば陽性反応が現れます。

<弱陽性反応>所要時間:11分間~15分間

検査開始から10分間経っても陽性反応がなかった場合、不要な粒子(ノイズ)を自動洗浄し、11分から高感度の増感モード(銀を増幅)に切り替わります。

感染初期でウイルス数が少なく、簡易検査キットでは発見できなかったウイルスも100倍に拡大することで発見しやすくなります。(※高感度モードでも発症直後で、体内のウイルスが増えていない状態では陰性になる場合もあります)

検査開始から15分経過してもウイルス反応が見られない場合は「陰性」となります。

検査結果はプリントアウトすることができ、インフルエンザの感染の有無だけでなくウイルスの型(A/B)の判定もできます。

高感度インフルエンザ迅速検査機
(引用)おおこうち内科クリニック インフルエンザ超早期診断
※こちらのクリニックでも「IMMUNO AG1」を導入。装置の使用法が分かりやすく説明されています。

3.「IMMUNO AG1」と簡易検査キットの比較・メリットデメリット

ここまで「IMMUNO AG1」の特長や使用法を見てきましたが、今度は簡易検査キットとの比較や、メリットやデメリットについて考えてみたいと思います。

IMMUNO AG1 通常の簡易検査キット
検出感度(発症~6時間まで) 84.6% 69.2%
診断可能な発症からの時間 4時間程度(※) 12時間以上
検査時間 3分半~15分 5~15分程度
再来院の必要性 ほぼなし 初期だと必要な場合も
1度に検査できる人数 1人 複数人

(※)通常、発症後4時間程度で検出可能ですが、人によっては2時間程度でも判定ができる事もあります。

高感度インフルエンザ迅速検査装置「IMMUNO AG1」のメリット

①より早く、より正確に!早期に治療が開始できる。

「IMMUNO AG1」を使うことで、従来の簡易検査キットでは出来なかった発症後12時間以内の診断が可能です。より早く、症状が軽いうちに治療を行うことができるので、回復が早くなり、重症化の予防に役立ち、周囲への二次感染拡大を抑える上でも有効です。

②少ないウイルスでも判明!再来院の手間を無くす。

通常の簡易検査キットの場合、発症初期のウイルスの数が少ないと「陰性」となってしまうため、時間を空けて再検査が必要になる事があります。

ウイルスの増加に伴い、頭痛や発熱といった症状が悪化している中、12時間以上我慢して再検査を受けるのは患者さんにとって本当に辛いもの。「IMMUNO AG1」なら、発症してから4時間程度で判定できるので、再来院の苦労を無くすことができます。

③検査費用は簡易検査キットと同じ。

さらに嬉しいのがこれまでの簡易検査キットと同じ費用で検査を受けられるということ。

装置の購入費用の他、使用するカートリッジは簡易検査キットに比べると割高なため、医療機関の負担は増えますが、保険上は簡易検査キットと同じ扱い(実施料150点、判断料144点)なので、患者さんの費用負担額は変わりません。検査費用は3割負担の場合、900円程度となります。(※他に診察料、投薬料などは別途かかります。)

高感度インフルエンザ迅速検査装置「IMMUNO AG1」のデメリット

①検査結果が出るのに時間がかかる。

従来の簡易検査キットは、検体を採取するだけで特別な装置を使わないので同時に複数人の検査が可能ですが、「IMMUNO AG1」は判定のために1人の検査に対し、1台の装置が必要で、時間も最大15分かかります。

インフルエンザ流行期、検査を受ける患者さんが多くなると、検査結果が出るまでに長く院内で待たされることがあります。隔離した待合室などで対応している医療機関もあるようですが、待ち時間が長いことは、感染拡大の防止という上でも弱点です。

但し、「IMMUNO AG1」の有効性が高いことや、装置もA5サイズとコンパクトで設置しやすいことなどから、医療機関によっては複数台導入しているところもあるようです。

②使用は医師の判断による。簡易検査キットで対応できる場合は使用されないことも

「IMMUNO AG1」の目的はインフルエンザの早期発見です。患者さん本人が検査を希望しても、医師の判断で簡易検査キットで対応できると判断された時や、感染が拡大してから増えてくる「念のため検査」の時には使用されないことがあります。

(参考)2012-2013インフルエンザ総括(3)「インフルエンザウイルス高感度検査機イムノAg1」-安斎医院ブログ
※こちらの医院では実際に「IMMUNO AG1」を導入しており、実際に使用している院長先生の所感や医院独自で収集したデータをブログで紹介しています。

4.「IMMUNO AG1」導入病院をチェック!インフルエンザの本格的な流行に備えよう。

ここまで高感度インフルエンザ迅速検査装置「IMMUNO AG1」についてご紹介してきました。

早期発見は、患者さん本人の辛い症状を軽減することはもちろんの事、周囲への感染拡大を防ぐ意味でも重要な意味があります。

これから本格化するインフルエンザの流行シーズン、「もしかしたら感染したかも?」と思った時には、早めに医療機関で高感度インフルエンザ迅速検査を受け、早期発見を目指しましょう。

但し、現在、「IMMUNO AG1」を導入している病院は限られており、どこの病院でも受けられるという訳ではないので、いざという時に慌ててしまわないために、前もって実施医療機関を探しておきたいものです。

高感度インフルエンザ迅速検査装置がある医療機関は下記のサイトで探すことができます。ぜひ、お近くの医療機関を検索してみて下さいね。
全国の高感度インフルエンザ迅速検査装置がある病院を「病院口コミ検索Caloo」で探す

東京23区内で検査装置を導入している病院をまとめた記事はこちらです。
東京都23区内で高感度インフルエンザ迅速検査を受診できる病院一覧

東京都市町村部で検査装置を導入している病院をまとめた記事はこちらです。
東京都市町村で高感度インフルエンザ迅速検査を受診できる病院一覧

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