感染症(パンデミック)対策における企業の具体的な対応、マニュアル作りについて

1. 企業と個人にとっての根本的な感染症対策
大切な「行動変容」の考え方
企業の感染症対策と一概に言っても、企業の規模や取組みの状況、抱える課題など様々です。
しかし、取組みを考える上で大切なのが「行動変容」という考え方です。
行動変容とは、人が行動(生活習慣)を変えるときには5つの段階(ステージ)を経るという考え方です。
その段階は、次の5つです。
- 無関心期(6か月以内に行動を変えようと思っていない)
- 関心期(6か月以内に行動を変えようと思っている)
- 準備期(1か月以内に行動を変えようと思っている)
- 実行期(行動を変えてから6か月経っていない)
- 維持期(行動を変えてから6か月経っている)
企業の感染症対策が、この場合の「行動」に当てはまります。
これらの行動変容で、対策段階を先に進めるには、次の行動が求められます。
社員一人ひとりが関心を持つ(1→2)。
行動を起こすよう働きかけを行う(2→3→4)。
個人だけでなく企業組織全体で行動を維持する(4→5)。
この取り組みをまず徹底させていくことが、あらゆる感染症対策の基礎になります。
企業の感染症対策における3つの目的
個人や家庭と比べて、企業ではその責任や役割はより大きく重いものになります。
企業における感染症対策の大きな3つの目的は、
- 従業員(社員、パート、アルバイトなど)や顧客を感染症から守る(感染予防)
- 企業が運営していくうえで必要な事業を継続する(事業継続)
- 社会に貢献する(社会貢献)
であると考えられます。
このうち、1の感染予防がしっかり行われないと、2や3の実行は不可能です。
1の基本的な感染予防の考え方や取組みについては、以下の記事を参考にしてください。
感染症が流行したとき、企業に求められる対策や体制は何より「協力」
これらの取組みがきちんと守れる体制が整ってから、2や3に移っていくことでスムーズな感染症対策が実現するでしょう。
2. 感染が起こり始めたとき、企業が事業体制を続けていくうえで大切な取組み
①検討体制(プロジェクトチーム)の構築
パンデミックのような、企業全体に大きな影響を及ぼすリスクがある場合、プロジェクトチームの構築が求められます。
社内の各部署がそれぞれ対策を講じるのではなく、部門関係なく一貫性のある対策が検討できることが重要です。

プロジェクトチームの編成には、いくつか注意点があります。
全社をあげて取り組むこと
企業の表側(営業や物流)だけでなく、裏側(管理や生産)にパンデミックの影響が及びます。
全ての主要な部署から人員を要請して、総合的な検討が求められます。
経営のトップが積極的に関与すること
プロジェクトチームのメンバーは日常の業務と並行して参加しなければなりません。
すると、感染症対策の活動が疎かになってしまいプロジェクトが形骸化する恐れがあります。
この状態を防ぐために、社長や代表取締役などの企業のトップがプロジェクトのイニシアチブを取ることが大切です。
プロジェクトのメンバーだけでなく、周りの従業員に対しても感染症対策の重要性を認識させることが求められます。
一度きりでなく継続的な改善を行っていくこと
パンデミックや感染症対策は一過性で終わることはありません。行動変容でいう5(維持期)の継続が求められます。
従業員の予防意識や必需品の準備調達を継続的に実行することで、はじめて策定したマニュアルや対処が緊急時に活きてきます。
なので、定期的に会合を開く、従業員に教育や訓練を施すといった形骸化しない取組みが必要になります。
②マニュアルを策定する
感染症によってもたらされる被害や影響を想定する
パンデミックが起こったとき、企業や取引先に及ぶ被害や影響が①どのくらいの範囲②どの程度③どのくらいの期間になるか想定することは、対策を考える上での前提条件です。
想定をきちんと行い、業務の振り分けをすることで、対策規模や内容、かかる人員や予算もはっきりします。
業務の振り分けでは、BCP(事業継続計画)の中のBIA(事業影響度分析)が必要になります。
BIAについて、こちらのリンクを参照してください。
参照:事業インパクト分析 (BIA: Business Impact Analysis)-ニュートンコンサルティング株式会社
BIAを行うことで、緊急時や早期復旧が必要な重要業務を前もって明らかにできます。
よって、限られた中で人員や予算を集中的に運用することが可能になります。
他にも、被害や影響を考える上では、政府や公的機関が発表する情報を参考にします。
また自社だけでなく取引先や顧客も出来るだけ具体的に想定する必要があります。
業務を優先度で分けて、事業を継続するための方針を立てる

感染症が広がると、通常の企業活動の継続がとても難しくなってしまいます。
しかし、企業を存続させるためあるいは取引先や社会的ニーズに応えるために継続しなければいけない業務も企業によっては存在します。
なので、マニュアルの中には
- 必ず継続しなければいけない業務(優先度:高)
- 可能な限り継続する業務(優先度:中)
- 中断してもいい業務(優先度:低)
という形で、各部門の業務を事前に割り振って、それぞれの対策を考えておくことが必要です。
業務の優先度で振り分ける上で、評価の点で気を付けるポイントがあります。
それは、「定量的・定性的どちらの観点でも評価を行うこと」です。
定量的観点は、例えば売り上げの減少額や影響を受ける顧客数、失う在庫量など数字で表されるものです。
定性的観点は、失われる評判や信用、従業員の士気、社会に与える影響など、数字で表されないものです。
これらの観点から重要業務を振り分けた後は、業務を継続させるための立案をする必要があります。
部署や拠点ごと、業務のフェーズごとに方針を一覧表にしたうえで、勤務方針や予防対策や感染症対策プロジェクトが必要となる業務を整理します。
優先業務のプロジェクト一例
こういったマニュアルは、公共性の高い公営の企業や役所のものが参考になると思われます。
感染症に合わせた体制を整える
例えば、感染症は地震とは違い大きく平時と緊急時の2つに分けることは出来ません。
緊急時の体制といっても、発生時、流行時、小康時、沈静時のような細かく時期や場合に分けて検討することが必要です。
情報管理についても、感染症という目に見えない恐怖から情報が錯綜することが考えられます。
混乱を防ぐように、情報発信元を固定管理することで企業内そして企業外に信頼できる情報を与えられるよう整備する必要があります。
その他、地震火災における避難訓練のような取組みを感染症に対しても実施したり、教育を常日頃から行うことも大切です。
消毒液や石鹸、使い捨てのマスクやゴム手袋といった備品も準備しておくといいでしょう。