鎮痛剤の過剰摂取には薬物依存の危険性も。片頭痛(偏頭痛)を治療する薬の種類・副作用・服用タイミング
1.毎日の生活に大きな影響を及ぼす片頭痛(偏頭痛)。繰り返すようなら治療が必要。
片頭痛は、慢性頭痛の1つで発作が起きると、激しい痛みに襲われますが、それだけで命にかかわるような病気ではありません。
頭痛発作はおさまると、ひどかった痛みもすっと引いてしまうため、そのまま治療をしないで済ませてしまうことも多いようですが、片頭痛の発作がしばしば繰り返され、寝込んでしまったり、日常生活に影響を及ぼしているようならば治療の必要があります。
忙しいからと治療を先送りしているうちに、発作の回数が増えたり、痛みの強さが増すことがあり、症状の悪化につながる危険性があります。
また、片頭痛と思い込んでいても、実は重大な脳の病気が隠されていることもあるので、痛みが続くようならば一度、脳神経外科や神経内科、頭痛外来を受診してみましょう。
片頭痛の治療の柱「薬物療法」とは?
頭痛発作やそれに伴う吐き気などの辛い症状を抑えるには「薬物療法」を行います。
頭痛薬と聞くと、鎮痛剤で痛みを抑えるのだろうと思われる方も多いですが、片頭痛の治療法はそれだけではありません。
片頭痛がおきるメカニズムは現在でも不明ですが、脳内の血管が過度に広がることが原因で痛みが起こることが分かっています。
そのため、頭痛専門外来などの医療機関では、広がった血管を収縮させることによって、根本から頭痛をなおすことを目的とした治療を柱とし、さらに頭痛を予防するための薬物治療も行っています。
2.薬物療法の第一段階は市販の鎮痛剤の使用。鎮痛剤は治療薬ではなく痛みを抑える薬。
風邪や寝不足、疲れなど頭痛の原因は様々ですが、頭が痛くなったからと言っていきなりお医者さんに行こうと思う方は少なく、とりあえず市販の鎮痛剤を飲んで様子をみることがほとんどではないでしょうか?
実際、片頭痛をもつ患者さんの7割も市販薬で痛みを抑えているというデータがあります。
市販の鎮痛剤の有効成分はアスピリン、エテンザミド、イブプロフェン、アセトアミノフェンなどそれぞれ違いますが、その目的はどれも痛み物質である「プロスタグランジン」を抑え、起きている炎症や痛みを和らげることです。
鎮痛剤には痛みが起こってから炎症を抑える作用があるので、痛みを感じてすぐに服用すると優れた鎮痛効果を得られますが、片頭痛の原因である脳血管の広がりを抑える作用はないため、根本的な片頭痛の治療にはなりません。
軽度の頭痛で、使用説明書に書かれている適正な量を時々使うことで頭痛がおさまるならばそれほど問題ではありませんが、長い間使い続けていると、様々な問題が起きてくるので注意が必要です。
※鹿児島県の脳神経外科のサイトです。頭痛の薬物治療について詳しく書かれています。
市販薬の使い過ぎは危険!発作を繰り返すたび使っていると知らぬ間に過剰摂取になる!?
たまに使う程度ならば問題のない市販薬ですが、頭痛発作が頻繁に起こり、そのたびに市販の鎮痛剤に頼っているようだと、いつの間にか過剰摂取になっていることがあります。
また、次第に痛みに対する不安から予防的に薬を飲んでしまったり、効き目が悪くなったからとだんだん飲む薬の量を増やしてしまったりというように鎮痛剤が手放せなくなってしまう薬物依存のスパイラルにはまってしまうことも。
使用量が増え続け、気が付いたら用量の10倍もの薬を使用していた、などという薬物乱用につながる危険性も高まります。
市販薬に含まれるカフェインには依存性が!過剰摂取が更なる頭痛、「薬物乱用頭痛」を引き起こす。
市販の鎮痛剤の中にはカフェインを含んでいるものも多くありますが、そのカフェインには習慣性・依存性という作用があります。
たとえ、一回の使用量は守っていても、あまりに頻繁に鎮痛剤を使用していると、やはり薬物の摂り過ぎになります。
そうなると、今度は過剰摂取した薬剤が原因となる、さらなる頭痛「薬物乱用頭痛」になる危険性が高くなります。
【体験談1】2日に1度のペースで鎮痛剤を服用。市販薬の使い過ぎで薬剤性の頭痛に!
就職し、偏頭痛が悪化。仕事柄、生活も不規則になっていた。偏頭痛は、1週間に1度の頻度で起こるようになっていた。そのたびに、今までの方法で鎮痛剤を飲み、偏頭痛を治めていた。あるとき、偏頭痛が鎮痛剤では治まらなくなった。私は、2日に1度もしくは毎日のペースで鎮痛剤を内服するようになっていた。
あるとき、あまりにも頭痛がひどいため、内科を受診。診断は、微熱もあり風邪ではないかとのことで、ロキソニンを処方され内服。ロキソニンを内服し、さらに頭痛の悪化。
立てないくらい目が回り、部屋の電気がまぶしく、テレビで吐き気がするくらいよってしまい、私の脳はおかしくなっていた。さすがに変だと思い、脳神経外科に受診。上記のことを説明。一応脳のCTもとったほうがよいといわれ、検査したが、異常なしとのこと。
脳外科の先生は、市販薬の内服のしすぎで、脳に異常をきたし(脳が過敏に反応し)、薬剤性の頭痛になっていると説明した。偏頭痛持ちの若い人に多いこと、また、夜勤などで生活が不規則な人にありがちだと説明された。ロキソニンを内服したことがそれにまた追い討ちをかけたようだ。
【体験談2】すさまじい前頭部の痛み。救急搬送され、気が付いたら病院のベッドに。
目を閉じても頭の中で光が点滅し、目を開けても明かりすら刺激になり、
心臓の脈動に合わせた両目と両こめかみ、前頭部の痛みがすさまじくて、
今思うととんでもない話ですが、
「今すぐ心臓が止まったら楽になるのに」と真剣に考えるほど、酷い痛みでした。
救急搬送されている時と、病院についてからの処置は、
正直ほとんど覚えていません。医師が何か質問してきたのは覚えていますが、
それにどう答えたかもはっきりしません。
ようやく辺りの様子が分かった時には、
私は点滴されており、ベッドに寝かされていました。意識がしっかりしてきてから、医師に、
「脳神経外科を受診し、市販薬は飲まないように。すぐ捨てなさい」と言われました。
市販薬も依存性があるため、片頭痛だからと簡単に飲むと、
今回のようなことが起こることがあるそうです。
飲む量を守って服用していましたが、今回のはある意味オーバードーズと同じだと。
痛みは身体に異常があるというサインだし、それを素人判断で、
無理矢理抑え込もうとするのはかえって危険なんだと叱られました。
上記の2名の方も長期間にわたる鎮痛剤の使用で、薬物乱用状態になり、薬剤性のひどい頭痛を起こしてしまいました。
市販の鎮痛剤は初期治療としては有効でも、長期間繰り返す治療には適さないということを覚えておきましょう。
辛い痛みを抑えるために飲んでいたはずのお薬も、ここまで片頭痛が習慣化すると逆効果になってしまうのです。
以下のチェックに当てはまるようであれば、薬物乱用頭痛の可能性があります。
該当する場合は、すぐに市販薬の使用を中止し、脳神経外科、神経内科、頭痛外来などで治療を受けましょう。
≪もしかして薬物乱用頭痛?自己チェック≫
- 月に15日以上頭痛がある。
- 10回以上鎮痛剤を飲む。
- 朝起きた時点ですでに痛みがある。
- 鎮痛剤がだんだん効かなくなってきた。
- 鎮痛剤を飲んでいるのにもかかわらず、痛みがひどくなる。
いったん、薬物乱用頭痛になってしまうと、2か月間は体から原因となる薬を抜くための断薬する必要があり、特に最初の1~2週間は辛い反動が起きることもあります。
このような状態を避けるためにも、飲みすぎないというのはもちろん、市販の鎮痛剤を購入する際は、含有成分が単一のものや依存性のあるカフェインを含んでいないものを選ぶというのも大切なポイントです。
(参考)スッきりんのバイバイ頭痛講座
※ファイザー株式会社運営の片頭痛に関する様々な役立つ情報が多数掲載されているホームページです。
3.根本的に片頭痛の原因を改善!病院で処方される頭痛の治療薬「トリプタン系製剤」「エルゴタミン製剤」
片頭痛発作治療薬「トリプタン系製剤」とは?
では、医療機関を受診すると、どのようなお薬が処方されるのでしょうか?
頭痛発作を抑えるためには、おもに「トリプタン系製剤」と言われる片頭痛発作治療薬が処方されます。
痛みを抑えるだけの市販の鎮痛剤に対し、トリプタン系製剤は炎症を抑えて、脳血管の収縮に作用する根本的な原因を抑える片頭痛専用の薬で、通常の鎮痛剤では効かない頭痛にも効果があります。
トリプタン系製剤は1錠1,000円近くする高価な薬なため(自己負担は3割だと300円程)、簡単に使えるお薬ではありませんが、広がった血管を戻し、痛みを鎮めることが出来ます。
また、吐き気や嘔吐、光や音過敏などちょっとした刺激で痛みを感じる「アロディニア」と言われる片頭痛が悪化した時、現れる特有の症状を抑える働きもあります。
現在、日本で認められているトリプタンの種類は5種類(製品名:イミグラン、ゾーミック、レルパックス、マクサルト、アマージ)ありますが、それぞれ効き目が早い、効果が長いなどの特徴があります。
剤型は錠剤、水なしで飲める口腔内速溶(チュアブル)、点鼻薬、注射があり、吐き気が多く、錠剤を戻してしまう時は点鼻薬、即効性を求めるときは注射という具合に使い分けられています。
またトリプタン系製剤の効果は患者さんとの相性によるところが大きいため、それぞれ患者さんに合った製品や剤型が用いられます。
前兆期や予防的に飲んでも効果はなく、軽い頭痛が始まり、片頭痛が始まったと確信したタイミングですぐに飲むと悪化を防ぐことが出来ます。
【体験談3】片頭痛の予兆時に使うと悪化を回避できる!イミグランは魔法の薬?
そして数年後、昭和医大に頭痛外来があることを知り、訪ねることにしました。
そこで出会ったのが、イミグラン点鼻薬です。
魔法の薬だと思いました。
先生曰く、私が頭痛と戦っていたここ10年で、偏頭痛に対する研究が大幅に進みすばらしい新薬が生まれたとのことでした。
偏頭痛にしか効かないため、その他の緊張型頭痛群発性頭痛には使用できませんが、眼がちかちかとするなどの偏頭痛の予兆があるときに使用すると、その後痛みが酷くなることを回避できるようになりました。本当にすばらしい薬です。またそのほかにも先生は、酸素ボンベの使用などを進めてくださいました。
酸素不足は頭痛の原因になるとのことで、頭痛が酷くなりそうなときは市販の酸素ボンベを使用し、ゆっくりと横になるようにしました。
必ずしも完全に痛みがなくなるというわけではなく、痛みが軽減される程度の場合もありますが、上記の方はイミグランの点鼻薬との相性が良く、目がちかちかして片頭痛が始まったと確信したタイミングでお薬を使うと、痛みを回避できるようになったようです。
発作が始まったタイミングは人それぞれ違い、タイミングを見極めるのは難しいですが、普段から頭痛ダイアリーを付けておくと、自分の頭痛が始まる時の共通パターンが掴めるので日頃から記録をしておきましょう。
トリプタン系製剤の副作用はあるの?
すでに10年以上使われているトリプタン系製剤はこれまで重篤な副作用は報告されておらず、安全性が高い薬といわれますが、人によっては息苦しさや胸の締め付け感を感じることがあります。
これらの症状は服用後、30分くらいの間に現れますが、自然に消えていくので心配はありません。
その他、眠気やめまいなどの精神・神経症状が現れる場合もありますが、同じトリプタン系製剤の中でも製品を変えたり、服用するタイミングを変えると、症状が緩和する場合も多いので、我慢しないで気になる症状がある時はまず主治医の先生に相談してみましょう。
(参考)小林小児科脳神経外科クリニック トリプタンの副作用と問題点
※こちらは兵庫県にある専門医による頭痛外来を持つクリニックのサイトです。トリプタン製剤について詳しく書かれています。
授乳中や妊娠中、トリプタン系製剤は使用できる?
授乳中の場合、薬剤が母乳に移行するため、トリプタン系製剤を服用後は、搾乳し、授乳まで24時間あける必要があります。
妊娠中は女性ホルモンの変動が少ないため、片頭痛自体、軽快することが多いですが、まれに妊娠中期まで発作に見舞われる妊婦さんもいらっしゃいます。
妊娠週数や体調なども関係する為、いずれも片頭痛の治療薬を使用する際は、主治医の先生の指示に従うようにしましょう。
(参考)おくすり110番 イミグラン
(参考)おくすり110番 ゾーミッグ
(参考)おくすり110番 レルパックス
(参考)おくすり110番 マクサルト
(参考)おくすり110番 アマージ
※こちらのサイトは病院で処方されるお薬について詳しい解説がされています。
もう一つの治療薬である片頭痛治療薬「エルゴタミン製剤」を使用するのはどんな時?
エルゴタミン製剤はトリプタン系製剤が出来る前から片頭痛の治療に使われてきたお薬です。
効果はトリプタン系製剤のほうが高いため、現在はトリプタン製剤が使えない方や、トリプタン製剤を使っても頭痛が再発してしまう方に限定して使われています。
クリアミン、ジヒデルゴッドというお薬がこれにあたり、持続時間が12時間程と、トリプタン系よりも大幅に効果が長いのが特徴です。
脳の広がった血管を収縮させ、血管周辺の炎症を抑えて痛みを緩和しますが、頭痛が始まる前(前兆期)に飲まないと効果が期待できないため、タイミングをはかるのが難しいお薬です。
1錠1,000円近くするトリプタン系製剤に比べ、一錠10円程度と安価ですが、市販では買えないため、医療機関で処方してもらう必要があります。
エルゴタミン製剤の副作用・注意点
不安、めまい、不眠や吐き気、手足がしびれるなどの副作用が起こることがあるため、異常を感じたら、すぐに主治医に相談することが大切です。
血管や子宮の収縮作用があり、母乳にも移行する危険性があるため、エルゴタミン製剤は妊娠中や授乳中は使えません。
併用することで効果が高まるためカフェインが含まれていますが、依存性があるため、予防的な使用や使い過ぎにならないように、定期的に診察を受けるなど、気を付けなければなりません。
医師の処方がないと使えないエルゴタミン製剤、トリプタン系製剤ですが、やはり頻繁に使用すると市販の鎮痛剤と同じように、薬物乱用頭痛を起こす危険性があります。
トリプタン系製剤を1ヶ月に10回以上使用し、3ヶ月を超えるような場合、トリプタンによる薬物乱用頭痛が起きることが確認されています。
安易な自己流はやめ、薬の効果に不安や疑問があるときは必ず主治医の先生に相談しましょう。
(参考)おくすり110番 クリアミン
(参考)おくすり110番 ジヒテルゴット
4.適切な治療で症状を改善!頭痛の不安を無くし、毎日を楽しめるように。
薬を使わない治療法も併せて行い、薬の効果をさらに高めよう!
薬だけに頼らず、薬剤以外で片頭痛を改善させる方法もあり、食事療法や頭痛体操、鍼治療、ツボ、アロマテラピーなどがこれにあたります。
体操は発作時にやるとますます痛みがひどくなるため、症状がある時はやってはいけませんが、症状がない時に行うと、発作の予防に効果があります。
片頭痛をおこしにくい食事や適度な運動などを日頃から心がけ、トータルに症状の緩和を目指しましょう。
すでに重い片頭痛に悩まされている方はもちろん、「もしかしたら頭痛持ちかも?」と疑いがある方も、どのような食品を選び、どのような生活をすると片頭痛への影響が起こるのか知ることは大切で、軽い症状ならばこれだけでだいぶ症状が軽くなることもあります。
片頭痛の食事療法、頭痛体操については以下の記事で詳しく説明しています。
遺伝も!?鎮痛剤が手放せない片頭痛の症状・受診タイミング・治療法・体験談
片頭痛にマッサージは逆効果?食品で予防&ツボ・アロマで改善!薬に頼らない片頭痛対策
頭痛治療の最終目標は「頭痛発作が出ないようにすること」。症状コントロールで生活の質が劇的に改善する!
頭痛治療の最終的な目標は「頭痛発作が出ないようにすること」ですが、完全に発作がなくならなくても、治療薬や予防薬を使い、症状をうまくコントロールできることで、患者さんの生活の質(QOL)はかなり改善します。
いつ起こるか分からない頭痛を気にしてばかりいては、毎日の生活を楽しむことは出来ません。
まずは一度、専門医にかかり、適切な投薬治療で片頭痛の改善を目指しましょう。
今回、ご説明した治療薬以外にも、頭痛を予防するお薬も開発されていて、うまく使うことで、発作を予防することも可能になっています。
体質だから仕方がないとあきらめているあなたの片頭痛も、もしかしたら治療をすることで改善するかもしれません!
自分に合った治療薬や治療方法を見つけ、頭痛とうまく付き合えるようになりたいですね。
(片頭痛の予防薬については次回の記事で詳しく説明したいと思います。)
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