白目の出血と強い痛みが主症状。急性出血性結膜炎の原因、症状、治療法と2018年の流行状況は?
目の強い痛みから始まり、充血、大量の目やに、まぶたがゴロゴロするなどの症状が起こる「急性出血性結膜炎(きゅうせいしゅっけつせいけつまくえん)」。
結膜炎自体は、子供から大人まで年齢問わず発症するよくある病気の一つであり、決して珍しい病気ではありませんが、潜伏期間が短く、突然発症することが多い急性出血性結膜炎は、白目の部分に激しい出血症状を伴うのが特徴です。
急性出血性結膜炎は、従来の結膜炎とは全く違う新しい型の結膜炎として、1969年に突如、世界的に大流行(アウトブレイク)した結膜炎。ちょうどアポロ11号の月面着陸と同じ年だったことから「アポロ病」という俗称でも呼ばれています。
日本においては、2011年に沖縄で流行して以来、大規模な流行は見られていませんが、今年(2018年)は過去5年間と比較すると患者報告数がやや増加している傾向。ウイルスの感染力が非常に強い病気であるだけに、今後の動向が気になるところです。そこで今回は、急性出血性結膜炎の原因や症状、治療法のほか、2018年夏の流行状況についてもご紹介します。
1.急性出血性結膜炎(きゅうせいしゅっけつせいけつまくえん)の症状と2018年夏の流行状況
急な目の痛みや出血に驚くことも!急性出血性結膜炎の症状とは?
目の結膜(けつまく)にウイルスが感染することで起こる急性出血性結膜炎。
結膜とは、上下のまぶたの裏側から眼球につながり、白目(強膜:きょうまく)の表面を覆う半透明の粘膜のことです。
「ムチン」という涙の成分である粘液を出して目に潤いを与え、眼球をスムーズに動かすためにも欠かせない働きをしていますが、直接外界に触れている場所であるため、外からの刺激を受けやすく、アレルギーや感染を起こしやすい場所でもあります。
急性出血性結膜炎は、目の強い痛みから始まり、続いてまぶたのゴロゴロした異物感や充血、目やに、眩しさなどの症状が現れます。
両目同時に発症することが多く、白目の部分にポツポツとした点状の出血が現れることから「急性出血性結膜炎」という名前が付けられました。
(画像引用)日本眼科学会 ウイルス性結膜炎ガイドライン
※白目部分に細かいポツポツとした点状の出血があるのが分かります。
人によっては目の症状だけではなく、頭痛や発熱のほか、風邪のような呼吸器の症状を伴うこともあります。
この結膜炎の怖いところは、ウイルスに感染してから平均24時間程度という潜伏期間が短いことと、結膜炎症状が激烈であること。予期せぬ急な発症に驚くことも少なくありません。
また、これらの症状は大抵、一週間程度で治まりますが、まれに両手足に運動麻痺の症状が現れることがあるため*1、症状が消えた後も6ヶ月~1年程度は注意深く経過を観察する必要があります。
ウイルスの感染力の強さから、一旦発症者が出ると、あっという間に流行が広がってしまう恐れもあり、小さなお子さんは学校内で集団感染を起こすケースもあります。
* 1 これまでに運動麻痺の報告がされているのは、原因となるウイルスの中でも「EV70」と言われる型のみ。(EV70については後述します)
(参考)国立感染症研究所感染症情報センター <特集>急性出血性結膜炎と神経合併症
北海道や山梨の一部地域ではすでに警報発令も!2018年の流行状況は?
感染力の強い急性出血性結膜炎は、「感染症法」という法律で「5類感染症」に定められているため、全国の指定された医療機関(眼科は約600カ所)から、週ごとの患者数の報告が義務付けられています。
下記のグラフを見ると2018年は、沖縄で流行が起こった2011年(オレンジの線)を除く過去10年と同様、低い位置で推移しており、全国的に大きな流行は見られません。
(参考)国立感染症研究所IDWR 感染症発生動向調査感染症週報 2018年第28週(7月9日~7月15日):通関第20巻第28号
※過去10年の患者数の比較ができます。赤太字が2018年のグラフ。
しかし、第28週(7月9日~7月15日)時点、散発的ではありますが患者発生の報告があり(全国の報告数は14人*1)、さらに感染の拡大の恐れがあるとして、すでに一部地域では警報が発令されているところもあります。
北海道の岩見沢保健所管内では、第26週(6月25日~平成30年7月1日)に警報基準(定点あたりの患者数1)を超えたとして警報を発令。また、第28週に入り、山梨県の一部地域(韮崎市、北杜市、南アルプス市)でも警報レベルに達したとして7月19日に警報が出されています。*2
2011年、沖縄流行時の患者発生数のピークは夏(7月)でした。この時は、特に5~14歳の子供の患者が多かったため、感染拡大を受け、多くの小中学校で学校閉鎖や学級閉鎖などの措置がとられました。
連日、各地で40℃近くの高温を記録するなど、過去に経験のない猛暑となっている今年の夏。
夏休み本番ということで、各地への移動が増える時期でもあります。それに伴い、これから流行が拡大する可能性も考えられるので、この先の動向を注意深く見守っていく必要があります。
*2 定点あたりの患者数とは、すべての定点医療機関からの報告数を定点数で割ったもので、一医療機関当たりの平均報告数を表します。2018年第28週時点での患者数の内訳は、北海道2人、群馬県2人、埼玉県2人、千葉県2人、東京都1人、神奈川県1人、山梨県2人、岡山県1人、福岡県1人の合計14人となっています。
(参考)北海道 急性出血性結膜炎の流行について(警報)
(参考)山梨県 急性出血性結膜炎の流行状況について(中北保健所狭北支所管内警報レベル入り)
(参考)厚生労働省 感染症法に基づく医師及び獣医師の届け出について 36急性出血性結膜炎
(参考)国立感染症研究所 2011年に沖縄県で発生した急性出血性結膜炎の流行およびコクサッキーウイルスA24変異型の分離
2.急性出血性結膜炎の原因と感染経路、類似疾患
発症原因はエンテロウイルス
急性出血性結膜炎の原因は、エンテロウイルスの仲間である「エンテロウイルス70(EV70 )」と「コクサッキーウイルスA24変異株(CA24v)」と言われる二つのウイルス。
エンテロウイルス(enterovirus)は、直径30nm(ナノメートル)程度*3の小さなウイルスですが、たくさんの型があり、よく知られているものでは、いわゆる夏風邪と言われる手足口病やヘルパンギーナなどがあります。
エンテロウイルスの「エンテロ」とは「腸」という意味。通常のエンテロウイルスは腸から感染するケースがほとんどですが、EV70とCA24vに限っては、腸ではなく目の結膜から感染します。
EV70の潜伏期間は、感染後24時間程度、そしてCA24vはそれより少し長い2~3日で発症することが分かっていますが、なぜ結膜に激しい出血を伴うのかなど、そのメカニズムについては未だ解明されていない部分もあります。
*3 「ナノメートル(nm)」とは長さの単位で、10億分の1メートルのこと。1nm = 0.000001 mm
一年を通して注意が必要!急性出血性結膜炎の感染経路とは?
急性出血性結膜炎は、主に接触感染によって感染します。
接触感染と言ってもウイルスが身体に付いただけで感染するわけではなく、ウイルスのついた手で目を触るなどして、結膜にウイルスが侵入することで感染します。
どの年代でも発症することがありますが、20~30歳代にやや多いほか、小さなお子さん(1~4歳児)の発症が多く見られます。
特に小さなお子さんの場合、幼稚園や保育園などでタオルやおもちゃなどを共有することも多いため、感染者が出ると一気に流行が拡大し、集団感染する可能性もあります。
特別な季節性がある病気ではないので、年間を通して流行が起こる可能性がありますが、全国的にみると夏~冬にかけての報告が多くなっています。
アレルギー、細菌、アデノウイルスなど……。ほかの結膜炎との違いは?
結膜炎の中には、急性出血性結膜炎と似た症状が起こるものがあります。
ひとことで「結膜炎」と言っても、「感染するもの」と「感染しないもの」があり、またその原因もアレルギーや細菌、ウイルスによるものに分かれ、それぞれ症状には特徴があります。
ハウスダストやダニ、花粉、動物などが原因で起こるアレルギー性結膜炎は、「非感染性結膜炎」と言われるもので、その名の通り感染力はありません。
原因となる物質(アレルゲン)に接触することで、即時的に反応して充血や腫れ、目やになどの症状が起こりますが、アレルギー症状特有の「目の痒み」があるのが特徴。
それに対し、強い感染力を持つ「感染性結膜炎」は、目の痛みや大量の目やに、涙目、羞明(しゅうめい:光がまぶしく感じる)などの症状はあっても、痒み症状が出ることはほとんどありません。
感染性結膜炎の中には、「ウイルス性」のものと「細菌性」のものがあります。どちらも非常に強い感染力がありますが、細菌性結膜炎が、数日間の抗生物質の服用で症状が大幅に改善するのに対し、ウイルス性結膜炎には抗生物質は効果がありません。
また、耳前リンパ節に腫れや痛みが出ることが多いのもウイルス性の結膜炎の特徴。なかでも患者数が多いのは、「アデノウイルス」というウイルスが原因で発症する結膜炎です。
アデノウイルス性結膜炎には、通称「はやり目」と言われている流行性角結膜炎(EKC)や、39度の高熱や喉の痛みなどが現れる咽頭結膜熱(プール熱)がありますが、どちらも潜伏期間が1週間程度と急性出血性結膜炎よりも長いことや、最初は片目だけに発症し、次第にもう片方の目に発症するというパターンが多いことなどが病気を見分ける重要なポイントになります。
炎症がひどい時には黒目(角膜)の表面が濁ることがありますが、急性出血性結膜炎に多く見られる点状の出血はあまり見られません。
このほか、「ヘルペスウイルス」によって発症する結膜炎もあります。こちらも基本的な症状は似ていますが、片目だけ発症するケースが多いことや、目の周りの皮膚に小さな水疱が出ることが判別の手がかりとなります。
(表)結膜炎の種類とそれぞれの特徴 Calooマガジン編集部作成
※クリックすると表が拡大されます。
(参考)横浜市衛生研究所 エンテロウイルスについて
(参考)NIID国立感染症研究所 急性出血性結膜炎とは
(参考)東京歯科大学市川総合病院眼科
(参考)MSDマニュアルプロフェッショナル版 結膜および強膜疾患
3.急性出血性結膜炎の検査と治療法
急性出血性結膜炎の検査と診断法は?
同じウイルス性結膜炎でも、アデノウイルスによる結膜炎は、その場ですぐ結果が分かる迅速診断キット(アデノチェックなど)が開発されていますが、急性出血性結膜炎にはこのように便利な迅速キットはありません。
ウイルスを特定するには、目のぬぐい液からウイルスを培養する方法や、遺伝子を調べる方法などがありますが、発症が急激でありつつも、一週間程度で症状が落ち着いてしまうことが多いことから、実際には医師の問診や出血の状態などを確認する視診によって診断を下されるケースが多いです。
急性出血性結膜炎の特効薬はなし!対症療法と新たな二次感染を防ぐ抗菌剤による治療
抗生物質の投与後、2~3日で症状が改善する細菌性結膜炎と違い、ウイルス性結膜炎には特効薬というものがないため、身体にウイルスを退治する抗体が出来るまで、基本的に自然治癒を待つことになります。(※ヘルペスウイルスを除く)
この間、炎症を起こしている患部に細菌の新たな二次感染を予防する目的で、抗菌剤を使用するほか、痛みなどの不快な症状を和らげる対症療法として抗炎症作用のある点眼薬が処方されます。
一般的な結膜炎では、炎症を抑える効果の高いステロイド点眼薬が処方されることが多いですが、急性出血性結膜炎の場合は、比較的短期間で回復することが多いため、ウイルス性結膜炎ガイドラインの中ではステロイド剤の使用は必要ないとされており、主に作用がマイルドで副作用の少ない非ステロイド点眼薬(NSAIDs:エヌセイズ)が処方されます。
なお、結膜炎を発症している時のコンタクトレンズの装着は症状の悪化につながります。症状が治まるまでは無理をせずに眼鏡などで過ごすようにしましょう。
◆二次感染を防ぐための主な抗菌薬
(商品名)タリビッド、クラビット、バクシダール、ロメフロン、トブラシン、パニマイシンなど
◆炎症を和らげる主な点眼薬(非ステロイド点眼薬)
(商品名)二フラン、ブロナック、アズレン、ムコゾームなど
(参考)おくすり110番 結膜炎の薬
(参考)ウイルス性結膜炎ガイドライン
4.急性出血性結膜炎の予防法と登園登校の扱い
急性出血性結膜炎を発症した時。保育園や学校、会社は行って良いの?
急性出血性結膜炎は、その感染力の強さから、学校保健安全法の中で「第3種の感染症」に定められています。
そのため、急性出血性結膜炎と診断されると「医師が周囲への感染力がなくなったと診断するまで、登園登校は禁止」となります。急性出血性結膜炎の場合、他人へ感染させる恐れのある期間は3~4日程度と言われており、登園登校の再開に関しては、自治体によっては医師の「治癒証明」の提出が必要になるところもあります。
また、大人の場合、会社への出勤は子供のように法律で禁止はされていませんが、通勤時や職場での集団感染を予防するため、可能な限りお休みするようにしましょう。
(参考)学校保健法安全法施行規則
周囲で感染者が出てしまったら!感染予防に気を付けたいこと4つ。
非常に感染力が強い急性出血性結膜炎ですが、残念ながら予防のためのワクチンはまだありません。
そのため、周囲に感染者が出てしまった時は、自主的な予防対策が必要。もちろん、患者さん自身も他の人にうつさないように細心の注意をしなければなりません。
手間がかることではありますが、以下の4つのことに気を付けて感染の拡大を防ぐことが大切です。
①石鹸と流水でこまめに手洗いを!
目薬を差す時以外は、なるべく目に触らないようにしましょう。目やにをふき取る時は、ティッシュなどを使い、ビニールなどに入れて他の人が触ることのないようにしてから捨てるようにしましょう。
手すりやドアノブについていたウイルスによって感染することもあるので、こまめに手洗いをすることも大切。よく泡立てた石鹸で手を洗い、流水でしっかりと洗い流しましょう。
②洗面用具やタオル、おもちゃなど、家族間の共用は止める。
家族の中ではよくある、洗面用具やタオルの共用も感染拡大につながります。家族が発症した時は、家族との共用はやめて患者さん専用のタオルを用意しましょう。
また、兄弟でおもちゃを共用しているご家庭も多いと思いますが、感染者がお子さんの場合、おもちゃを介してウイルスをもらってしまうこともあるので、発症時は混ざってしまわないように、あらかじめ分けておくなどの配慮が必要です。
③お風呂は最後に。またはシャワーのみにする。
発症時のお風呂は、一番最後に入るか、シャワーのみで済ませるようにしましょう。同じく、プールも主治医の先生の許可が下りるまではお休みするようにしましょう。
④ウイルスは熱消毒または塩素系消毒液で徹底的に除去する
ウイルスが付着してしまった服やタオルなどは家族とは別に洗濯を行います。
ウイルスは熱に弱いので、熱による消毒が可能なものであれば、加熱消毒(100℃の熱湯なら1分間加熱)を行います。
熱湯消毒が難しいおもちゃや家具、それ以外のモノなどは、家庭用塩素系漂白剤によるふき取りを行います。
家庭用塩素系漂白剤(ハイターやブリーチなど)の原液に含まれている「次亜塩素酸ナトリウム」という成分には、ウイルスを除去する効果があります。
ふき取りに使用する消毒液は家庭でも簡単に作ることができますが、刺激が強いため、十分な換気を行い、使用する時にはビニール手袋を着用しましょう。
また、時間が経つと効果が薄れるので、なるべくこまめに作り直し、誤って飲むことのないようにラベルを付けるなど、その取り扱いには十分な注意が必要です。
≪参考≫塩素系消毒液を自作しよう!
用意するもの:ペットボトル(500ミリリットルまたは2リットルのもの)1本、家庭用塩素系漂白剤、水
- ウイルスが付着した衣服や床などの消毒に使う時……500mlのペットボトルにペットボトルのキャップ2杯(5mlx2=10ml)の塩素系漂白剤と水を入れ、蓋をしてよく混ぜる。(濃度0.1%消毒液)
- おもちゃ、家具などの消毒などに使う時……2リットルのペットボトルにペットボトルのキャップ2杯(5mlx2=10ml)の塩素系漂白剤と水を入れ、蓋をしてよく混ぜる。(濃度0.02%消毒液)
(画像引用)福山市 家庭で出来る!ペットボトルを使った消毒液の作り方
※塩素系消毒液の作り方を図解で分かりやすく説明しています。※クリックすると拡大されます。
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