【うつ病再発防止】うつ病の再燃、再発を防ぐための睡眠・食事・運動のあり方
1. うつ病の再発とは
1. うつ病症状が戻ってくる再燃、寛解後にうつ病に再びかかる再発
うつ病の症状が治まり、学校や職場に復帰を遂げ、元の生活に復帰することができたとしても、うつ病が完全に治ったと安心してはいけません。
うつ病の症状が軽くなるとすぐに治療をやめたくなる方もいるかもしれません。しかし、自己判断で急に治療をやめてしまうことは大変危険です。治療をすぐにやめると再燃や再発の恐れが高まるからです。
再燃とは、おさえられていた症状が復活することです。一方、再発は寛解の後、同じ病気になることを指します。「寛解」とは、症状が消失した状態を指します*1。
症状が完全に消失した状態を「完全寛解」、症状が一部残っていても生活に支障がない状態を「部分寛解」と区別することもあります。
症状が再び現れることがない状態を指す「完治」や「治癒」という言葉は、再発や再燃がありうる疾患には通常用いません。
研究により、症状がなくなった後の26週間の服薬が、うつ病の再燃予防に効果があることが示されています*2。
症状が治まっても医師の診断のもと、4-9ヶ月程度は薬物療法を続けるのが再燃防止に望ましいとされます*3。
2. うつ病は再燃、再発しやすいの?
うつ病に1度罹った方の50-60%が2度目のうつ病を経験するとされます*4。
このように、うつ病の再燃、再発のリスクは低くはありませんが、複数の研究結果から、寛解後の抗うつ薬の服薬が再燃、再発のリスクを下げることがわかっています*5。
また、再発予防のために精神療法、特に認知行動療法にも効果があることが報告されています 。自分にあった方法を医師や専門家と相談するといいでしょう。
3. うつ病は繰り返すと治りにくいの?
実はうつ病は再発しやすい病気のひとつとして数えられています。
うつ病に1度罹った方の50-60%が2度目のうつ病を経験すると述べましたが、その後再燃や再発を繰り返すたびにさらに再発率が高くなります。
うつ病に2度罹った方の70%, 3度罹った方の90%が、新たなうつ病を経験すると言われています*4。
自己判断で治療を中断せずに、できるだけ早い段階から再発予防を心がけることが重要です。
2. うつ病の再発予防のための睡眠への気配り
1. 良質な睡眠は何よりのうつ病予防
うつ病を患う方の多くが睡眠のトラブルに悩まされています。うつ病罹患者の約90%の方に不眠の症状が現れると言われています*6。
不眠だけでなく、寝付きが悪く何時間もベッドの中で苦しむ入眠のトラブル、そして夜中や早朝に目が覚めて、再び眠ることができなくなるという覚醒のトラブルも一般的です。
夜眠れないと焦ったり、ネガティブなことをいろいろと考える時間が増えてしまったりと、気分が落ち込んでしまいます。
睡眠不足により、脳が十分に休息できず、ものの見方にも影響を与え、日中のストレスを感じやすくなり、うつ病を発病、再発するきっかけにつながります*6。
再発予防のために良質な睡眠を毎日しっかりとることが理想的です。
2. 睡眠時間だけにとらわれず、良質な睡眠でうつ病予防を
睡眠時間は6〜7時間が適切と言われることが多いですが、これには年齢差や個人差があります。
大切なのは時間の長さではなく、その時間しっかりと眠れ、疲れがとれているか、ということです。
もちろん睡眠不足は良くありませんが、「毎日7時間寝なければいけない」という強迫観念が入眠を妨げる可能性があります。
睡眠の悩みを感じる方は、合計の睡眠時間だけを参考にせず、良質の深い睡眠を得ることができているかを判断材料にしてください。
毎日どうしても眠れない場合は医師と相談し、睡眠導入剤を服用することもあります。
うつ病の症状はおさまったのにまた薬、と思われるかもしれませんが、眠るコツをつかむためにも、一定期間の服薬は助けになります。
最終的には自然に良質な眠りが得られるよう、少しずつからだを慣れさせていくことを目指します。睡眠導入剤さえ飲めば大丈夫、ということではありません。
平行して、自分なりの安眠方法を見つけていけるとよいでしょう。
3. うつ病予防につながる良質な睡眠のために心がけたいこと
まず大事なのは毎日眠る時間、起きる時間を守ることです。乱れがちな生活のリズムを整え、からだを日中の活動に合わせるために大変効果的です。
寝付きを良くし、決まった時間に眠るために、日中適度に体を動かし、昼寝をしすぎないことも大切です。
パソコンやスマートフォンなどの操作は寝る1時間前から避ける、ストレッチをする、ゆっくり湯船につかってからだを温めるなど、リラックスして眠る準備を整えられるとよいですね。
4. うつ病に罹り、長く眠りすぎてしまう方も
不眠に悩む方がいる一方、うつ病の睡眠障害の中には極端に長い時間眠ってしまう「過眠」と呼ばれる症状も含まれます。
10時間や15時間、ときには一日のほとんどの時間を眠っているにもかかわらず、起きている間も覚醒せず、眠気が取れることはありません。
うつ病のときには休養を、といいますが、長過ぎる睡眠や不適切な時間の睡眠は生活のリズムを狂わし、こころとからだのパワーを奪います。
また、過眠は双極性障害 (躁うつ病) を考える徴候の1つです*1。不眠、過眠のいずれにせよ、睡眠の乱れには注意を向ける必要があります。
3. うつ病の再発予防のための食事への気配り
1. うつ病予防に効果的な食材はあるの?
うつ病の予防に食べ物?と思われるかもしれませんが、食事とうつ病の関係が注目されつつあります。
うつ病の原因はとても複合的で一つに特定することは難しく、これさえ食べればうつ病にならない!という食材はありません。サプリメントも、処方されている抗うつ薬の効果に影響を与える可能性があるので、自己判断で摂取せず、医師に相談しましょう。
ここでは、研究により報告されている食事とうつ病の関係をご紹介します。
加工が少なく、食物繊維、ビタミン、ミネラル等が残っている食事に比べて、西欧式食事を摂る傾向の方が、うつ病に罹患している頻度が高かった報告されています*7。
他にも、果物、ナッツ、豆類、飽和脂肪酸に比した一価不飽和脂肪酸の摂取量が多い方がうつ病発症率が低いという研究結果もあります*8。
ただし、明らかな関連は見られなかった研究もあり、まだまだ研究が続けられている段階です。
2. バランスよく食べて、うつ病予防!
冒頭に述べたとおり、うつ病の原因は複合的で、うつ病を予防する食材がひとつに決まるわけではありません。基本的な健康維持とおなじで、からだや脳の中ではいろいろな栄養素が複雑に助け合って働いているので、いろんなものをバランス良く食べることが大切です。
日々の生活を整えることがうつ病の再発予防につながります。食事に気を配り、3食適量をバランスよく食べることは、自分自身を大切にし、日々ていねいに暮らしていくきっかけになるでしょう。
3. 無理なダイエットは再発につながる危険性も
うつ病治療において、活動量の低下や薬剤の影響で、体重が増加する方もいます。しかし、無理なダイエットをすると、抑うつ症状が再び現れる危険性が報告されています*9。
まずは心の調子を安定させることを優先すれば、生活リズムの回復とともに自然と活動量も増え、体重も安定してくると思われます。
4. 料理を趣味に、楽しみが増えるとうつ病が遠のく
食事を作ったり、おいしく食べたりすることは日々の活力の源です。また、バランスの良い食事を心がけることで、必要なものを自分で選ぶ、自炊するなど、活動のきっかけになります。
好みの食器を選んだり、家庭菜園で野菜を育てたり、休日に山菜を採りに出かけたりなども、食を通じた楽しみの一つです。
食材を選び、料理をするなどの日々の楽しみを持つことは、うつ病予防につながると言えます。
結果的に自分のこころとからだが健康になるなんて、一石二鳥の楽しみではないでしょうか。
4. うつ病の再発予防のための運動への気配り
1. うつ病の再発予防につながる良質な睡眠を運動で手に入れる
運動はうつ病の治療法としては確実な評価は得られていませんが、再燃・再発に効果的だという報告もあります*10。特に、朝に日光を浴びる習慣は、抑うつ症状を抑える効果があると報告されています*11。
また、日中の適度な運動は夜の入眠をスムーズにし、深く良質な睡眠をもたらしてくれます。
つまり、適度な肉体の疲れが良い睡眠習慣に役立ってくれるのです。
うつ病罹患者の約90%の方に不眠の症状が現れると言われているほど、うつ病を患う方の多くが睡眠のトラブルに悩まされています*12。
適切な時間にしっかりと眠ることは、うつ病予防に何よりも心がけたいポイントの一つです。
2. 自分にあった運動を、無理なく楽しんでうつ病の再発予防を!
しかし、自分に合わない、楽しめない運動や、過度に負荷がかかる運動を日課にしてしまうと、運動が日々のストレッサーになりかねません。
運動を楽しみではなく「毎日やらなくてはならないこと」「うまくやらなくてはならないこと」にしてしまうと、精神的な負荷として感じてしまうようです。
「毎日」や「1回2時間」などと決めてしまうのは、続けるのがつらくなりやすいので、今日は散歩に行かなかったから寝る前に少しストレッチをするなど、臨機応変に考えると良いでしょう。
また、運動がもともと苦手な人は、軽いストレッチや散歩、からだを動かすゲームやショッピングなど、かたちにこだわらずに、楽しめることを自分なりに探すのもお勧めです。
寝覚めの悪い朝など、少しからだをのばすようにするだけで、からだに血が巡ってスッキリすることがあります。
運動を自分に課すのではなく、楽しみや気分転換にうまく取り入れられると良いですね。
3. 運動を通じた仲間づくりもうつ病予防につながる
からだを動かすこと自体だけでなく、運動にはその他のメリットもあります。
うつ病を患うと社会から隔離された気分になり、人とのつながりの場を失いがちですが、運動という趣味を通じて、新たな友達や仲間という人間関係の場が生まれやすくなります。
運動を通じたこうしたメリットは生活の質を向上し、こころを豊かにしてくれるでしょう。
5. うつ病の再発予防に効果的な精神療法とは
1. 再発予防のための精神療法
ここではうつ病の再発予防に効果的な精神療法を2つ紹介します。
それは、認知行動療法と対人関係療法です。
どちらもうつ病の治療効果、再発予防効果が示されていますが、ご本人の周囲の環境や治療の段階、個人の性格によっても向き不向きがありますので、医師や専門家と相談して進めましょう。
精神療法は、心理療法と呼ばれることもあります。
2. 認知行動療法とは
うつ病の治療や再発予防への効果が実証されている精神療法に認知行動療法 (CBT; Cognitive Behavioral Therapy) があります*13。
標準的には、週1回45分、12-16回のセッションで行われますので、比較的短期間に気分の改善を図ることができます*14。
認知行動療法の基本は「認知のくせに気づき、それを変える」というもので、認知とは物ごとの捉え方、解釈を意味します。
例えば、雨が降ったとき、『雨が降った』というのは事実です。しかし、認知は人それぞれ異なります。「傘を持ってないのに最悪だ」と思う人もいれば「昨日降らなくって良かった」と思う人もいて、同じ事実に対する反応は様々です。
認知行動療法ではこのような認知のくせに自分で気づくトレーニングをします。これにより、ストレスを感じにくい認知ができるように練習する実践的な療法です。
はじめは難しく感じるかもしれませんが、日記や宿題形式の目に見えるものを使った、比較的短期間のトレーニングですし、一度マスターすれば人生において広く活用できます。
3. 対人関係療法とは
日々のストレスの中でも人間関係、とくに身近な人との関係性に悩む人に向いている精神療法が、対人関係療法 (IPT; Interpersonal Psychotherapy) です。
対人関係療法は、ご本人にとって重要な他者との関係性と症状のつながりに着目し、人間関係における課題に対処できる方法を見つけることで、症状にも対処することを目指します*13。
このような課題に対処するために、自分の気持ちや感情をきちんと認識して、それをことばにして相手にうまく伝えることは、誰にとっても簡単なことではありません。
しかし、一度自分のものになれば一生を通じて役に立つでしょう。研究により、対人関係療法の治療効果、再発予防効果はともに示されています *13。
<出典>
- 厚生労働省. 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト こころの耳. 用語集http://kokoro.mhlw.go.jp/glossary/mentalhealth.html#word-1676
- Reimherr FW, Amsterdam JD, Quitkin FM, et al. Optimal length of continuation therapy in depression: a prospective assessment during long-term fluoxetine treatment. Am J Psychiatry 1998; 155(9): 1247-53
- 日本うつ病学会監修 (2013)「大うつ病性障害・双極性障害治療ガイドライン」31 医学書院
- 精神医学講座担当者会議 監修 (2010)「気分障害治療ガイドライン 第2版」18-19 医学書院
- Geddes JR, Carney SM, Davies C, et al. Relapse prevention with antidepressant drug treatment in depressive disorders: a systematic review. Lancet 2003; 361: 653–51
- 日本うつ病学会監修 (2013)「大うつ病性障害・双極性障害治療ガイドライン」14, 26 医学書院
- Jacka FN, Pasco JA, Mykletun A, et al. Association of Western and traditional diets with depression and anxiety in women. Am J Psychiatry 2010; 167(3): 305-11
- Sánchez-Villegas A, Delgado-Rodríguez M, Alonso A, et al. Association of the Mediterranean dietary pattern with the incidence of depression: the Seguimiento Universidad de Navarra/University of Navarra follow-up (SUN) cohort. Arch Gen Psychiatry 2009; 66(10): 1090-8
- 日本産業精神保健学会 編 (2011) 「職場のメンタルヘルスケア 精神医学の知識&精神医療との連携法」267 南山堂
- 精神医学講座担当者会議 監修 (2010)「気分障害治療ガイドライン 第2版」54 医学書院
- Eastman CI, Young MA, Fogg LF, et al. Bright light treatment of winter depression: a placebo-controlled trial. Arch Gen Psychiatry 1998; 55(10): 883-9
- 日本うつ病学会監修 (2013)「大うつ病性障害・双極性障害治療ガイドライン」14, 26 医学書院
- 精神医学講座担当者会議 監修 (2010)「気分障害治療ガイドライン 第2版」59, 130-134 医学書院
- 田村法子, 中川敦夫(2012)うつ病の認知行動療法. 医学のあゆみ. 242 (6) : 501-504
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