【新型うつ病】今の若者はほんとうに弱くなったのか?新型うつ病を知る
1. 若者の「新型うつ病」とは何か?
1. 「新型うつ病」とは何か
「新型うつ」病とは医学的に定義された病名ではありませんが、その特徴を次の8つにわけることができます。
- 若い人に多い
- こだわりがあり、負けず嫌いで、自己中心的に見える
- 自分の好きな活動の時は元気になる
- 仕事や勉学になると調子が悪くなる
- 「うつ」で休むことにあまり抵抗がなく、逆に利用する傾向がある
- 疲労感や不調感を訴えることが多い
- 自責感に乏しく他罰的で、会社(学校)や上司・同僚(教師・友人)のせいにしがちである
- 不安障害(パニック障害、社会不安障害、強迫性障害など)を合併することが多い
2. 一般的なうつ病(メランコリー型うつ病)と「新型うつ病」との違い
以下の表で、典型的なうつ病といわれている「メランコリー型うつ病」と「新型うつ病」の比較をしてみます。
メランコリー型うつ病 | 新型うつ病 | |
---|---|---|
気質 | 執着性格 | 神経質 |
関連病態 | 典型的な内因性うつ病 | 抑うつ神経症、ディスミチア型うつ病 |
病前性格 | 真面目、几帳面、努力家、仕事熱心、完璧主義、配慮的、強迫性、凝り性 | こだわり、負けず嫌い、自己中心的、未熟、依存的、過度の自負心、完璧癖 |
年齢 | 中高年に多い | 若者に多い |
特徴的症候 | 抑うつ気分、焦燥感、あせり、疲労と罪悪感、深刻な自殺念慮 | 不完全、疲労感、倦怠感、回避と他罰的感情、衝動的な自傷、軽い自殺念慮 |
気分反応性 | なし(いつでも調子が悪い) | あり(好きな活動の時は元気になり、仕事や勉学になると調子が悪くなる) |
3. 「新型うつ病」は性格に問題があるのか?
性格や価値観そのものが問題でうつ病になるのではなく、性格と環境の相互作用でうつ病は発症します。
例えば、どんどん新しいことに挑戦していくタイプの人は、自分が熱心に取り組んでいたことがうまくいかなくなると落ち込みます。
仕事や人間関係よりも家庭を大事にするという価値観を持っている人が、過重労働の環境の置かれ、家庭を大事にできなくなれば落ち込みます。
性格自体は、遺伝的に決まっていたり、長年の経験により形成されていたりするものなので、一朝一夕に変えることは難しいですが、環境を変えたり、環境への適応の仕方を学ぶことはできます。
その人の性格を尊重しながら、環境を変えたり、環境への適応を試みることが最も大事だといえますね。
4. 「新型うつ病」の3つのタイプ
新型うつ病を3つのタイプに分類することができます。
タイプ1. ディスミチア型うつ病
「やる気のなさ」を訴えることが多く、「条件さえ整えば何でもできるのに」といた過度の自負心や漠然とした万能感がうかがえます。ディスミチア型うつ病と特徴が近似している病態は、これまで抑うつ神経症、スチューデント・アパシー、退却神経症、逃避型うつ病などとよばれてきました。さらに近年では、未熟型うつ病、現代型うつ病などと命名されるタイプもあります。
大学四年に進級し実習が始まりました。実は、Dさんは中学時代から自分の口臭が気になっており、そのために人前ではとても緊張しやすい性格だったのです。歯学部の実習では、人と接する距離が近く、今まで以上に人前で話をしたり、人と接する時に、著しく緊張するようになってしまいました。実習開始から数ヶ月たっても、Dさんの行動は極めて消極的であり、人と接するのを避ける傾向が顕著でした。それを見た指導教官が、Dさんを呼んで注意をしました。決して厳しい注意ではなかったと言います。その翌日からDさんは実習を欠席するようになりました・
引用元:傳田 健三:若者の「うつ」- 「新型うつ病」とは何か – 指導教官に注意され休学に p.86
タイプ2. 非定型うつ病
以下の4つの特徴を持つうつ病です。
- 典型的なうつ病とは逆の自律神経症状である過食と過眠を主症状とする
- 自分に都合の良い出来事に対しては気分が良くなる
- 身体に鉛の重りをつけられたような激しい疲労感を訴える
- 人間関係に非常に敏感である
Eさんと母親が私の診療室を訪れました。Eさんに話を聞くと次のような独特の特徴を持った状態像が明らかになってきました。睡眠に関しては、途中で目を覚ますこともありませんが、熟睡感がありません。朝は起きることができず、昼過ぎまで寝ています。いつも眠気があり、明らかに過眠傾向があります。食欲は、高校時代から続いていた過食が悪化し、夜だけでなく昼にも過食の衝動が襲ってきて、一日に三、四回過食をして嘔吐しますが、次第に全部嘔吐するのがおっくうになり、体重が急激に増加し、二週間で四キロも太ってしまいました。
引用元:傳田 健三:若者の「うつ」- 「新型うつ病」とは何か – 憂うつだけど怒りがおさまらない p.107
タイプ3. 発達障害型うつ病
アルペルガー障害などの軽度発達障害を背景にもつうつ病のことです。うつ症状を主訴に病院を受診したところ、うつ病の診断基準を満たすが、本人の悩みや周囲が困っている問題の中心は、むしろ軽度発達障害による社会性の障害、コミュニケーションの障害、こだわり傾向によることが多いという場合です。
四歳から幼稚園に通いましたが、集団で行動したり、みんなと交互にやり取りする遊びは好まず、一人遊びに終始していました。
Fさんは医療系の大学に現役で合格しました。
実習場面のすべてが不潔に感じられ、さらに自分が触った物によって患者さんに害が及ぶのではないかという強迫観念が生じるようになったのです。
次第に、気力減退、抑うつ気分、集中力減退、入眠困難、食欲減退などの抑うつ症状が出現し、しばしば実習や授業を欠席するようになってしまいました。
引用元:傳田 健三:若者の「うつ」- 「新型うつ病」とは何か – 一人遊びが多かった p.117-p120
3. あなたが「新型うつ病」になったらどうする?治療における5つの心得
心得1. 休養と服薬のみで治ることを期待しすぎない
メランコリー型うつ病(一般的なうつ病)の場合は、休養と服薬を中心とした治療により、症状は徐々に回復し、自ら立ち直っていく人が多いように思います。
しかし、「新型うつ病」に対する薬物療法の効果は一般に限定的であることが知られています。
従って、過度に休養と服薬に期待しすぎることは禁物です。
心得2. 日常生活のリズムを整える
「新型うつ病」の人は調子が悪くなると、昼夜逆転の生活になることが多いようです。
うつ病の特徴である、午前中は調子が悪く夕方から夜にかけて少し調子が良くなるという日内変動のため、起きる時間が次第に遅くなり、就寝時間がずれていくことも一つの要因です。
また、何もすることがない昼間に寝て、誰からも邪魔されない深夜に好きなことをやりたいという心理も働くようです。
うつ病の初期段階においては、十分な休養が必要ではありますが、うつが改善してきたら、徐々に睡眠・起床時間は勤務・通学していた時間と同じに戻して、日常生活のリズムを整えていく必要があります。
心得3. リハビリテーション・プログラムを活用する
「新型うつ病」の人は、「復職支援プログラム」などのリハビリテーション・プログラムを敬遠する場合が少なくありません。
それは、不完全な自分を人に見せることが恥ずかしく思ったり、失敗した時にプライドが傷つくことを恐れているからです。
しかし、「復職支援プログラム」「外来作業療法」「自助グループ」「デイケア」などのリハビリテーション・プログラムに参加したことにより、状態が改善に向かうことが非常に多いので、活用することをお勧めしています。
心得4. 薬物療法の内容を再考する
先にも述べましたが、「新型うつ病」への抗うつ薬の効果は限定的です。
従って、抗うつ薬を服薬し、十分量を十分期間利用し、効果が感じられなければ、抗うつ薬を変更するか、使用中止するといったことが必要になります。
心得5. 自分自身を励まし続ける
自負心が強く、プライドが高いことが特徴である「新型うつ病」であっても、内心では、長期間復帰できない自分に自信を失いかけていたり、焦燥感を感じていたり、今後について不安に感じていたりするものです。
そんなときに、「自分なら焦らずに一歩踏み出すことができる」と自分自身を励ますことも非常に大事です。
4. あなたの部下や生徒が「新型うつ病」になったらどうする?接し方の3つの心得
心得1. 早めにサインに気づいてあげること
まずは、うつ病の若者は予想以上に存在しているということを認識し、うつ病のサインに早く気付きましょう。
しかし、自分の部下や生徒だからといって、若者のうつに気づけるチャンスはそう多くありません。
以下のようなサインが出だしたらうつ病を疑いましょう。
- 欠勤、欠席、遅刻、早退などが増える
- 成果、成績が落ちる
- 落ち着きがない
- 体重の増減が激しい
- 人を避け、孤立する傾向にある
- イライラしやすく、粗暴になる
- 攻撃的で、衝動的である
- 疲れやすく、気力がない、何事にも無関心である
- 身だしなみが乱れている
- 頭痛や腹痛などの身体症状が頻繁に出ている
心得2. 身体の病気と考えること
うつ病は身体の病気です。心身の疲弊状態なのです。
骨折の場合、当初は十分な安静の時間が必要で、ある程度回復したら、リハビリが必要です。
うつ病の若者も同様だと考えるのです。
心得3. 復調を応援する姿勢を保つこと
先の心得でも述べましたが、うつ病にはリハビリが必要です。
その人に応じた、リハビリプログラムを、企業であっても学校であっても主治医と協力して作っていく必要があります。
4. 今の若者は弱くなったのか?うつ病の変化と現代社会
今の若者は弱くなったというより、自分自身を大切にして、今を充実させる生き方へそのスタイルを変えてきたと言うことができるかもしれません。
それはある意味では、社会・文化の変化に対する防衛反応と考えることも可能で、ぎりぎりまで追い詰められて自殺を企図するという方法を選ばずに、早めに撤退したということかもしれません。
それは今の時代においては、もしかすると、適切な対処行動かもしれないですね。
<出典> 傳田 健三(児童精神科医・北海道大学大学院保健科学研究院 生活機能学分野教授):若者の「うつ」- 「新型うつ病」とは何か
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