麻疹(はしか)を少しでも面白く。江戸時代のはしか擬人化ラノベ「麻疹賀散退記」
1. 江戸時代の麻疹の流行、町民は不安と混乱の中にあった
現在では、麻疹ワクチンの予防接種や治療法も確立されている、伝染病の代表格麻疹(はしか)。
しかし、日本の江戸時代ではようやく麻疹(はしか)が流行り病であるということが認識された程度でした。
治療法も、民間療法から漢方、オランダからもたらされた薬などによる治療などはっきりしません。
もちろん、はしかの治療マニュアルも、幕府だけでなく薬屋や医師がこぞって自身の治療法が正しいと宣伝していました。
江戸時代の町民は、麻疹ウィルスだけでなく、同じように目に見えない情報に振り回されることになっていました。
2. はしか絵と物語が合わさったら、もはやラノベ。やっぱりご先祖様です
江戸時代の町民の不安を解消するために、はしか絵と呼ばれる錦絵が浮世絵師たちによって数多く出版されました。
はしかになったときに食べてはいけないもの、はしかに効くとされる食べ物、日常生活での注意点などが描かれています。
はしか絵の中には、はしかそのものを擬人化したり、薬や食べ物を擬人化するユニークなものもありました。
はしか絵と擬人化について、詳しい記事はこちらです。
麻疹(はしか)の歴史~擬人化で江戸時代の人は何を思った?~
更に、はしか絵に比べて知名度は落ちますが、はしかをテーマにした物語も江戸時代に出版されています。
多くの人に手に取って、読んでもらうような物語、擬人化という手法。
それは現在のライトノベルと同じではないでしょうか?
今回は、江戸時代に出版されたはしか擬人化ライトノベル「麻疹賀散退記」を紹介します。
麻疹賀散退記はヒーローもの、仲間を集めて悪を倒す王道展開!
麻疹賀散退記の概要
麻疹賀散退記は、1803年5月に出版されました。
内容は、はしかと闘う麻疹薬をヒーローとしたスペクタクル活劇です。
著者は不明で、現在も写本しか残っておらず、グーグルで検索しても「文久諷刺戯作」という編纂本に掲載されているという情報しか分かりません。
麻疹賀散退記のストーリー
28年前、安永5年(1776年)の流行のとき、一人の元凶が倒されました。その者の名は麻疹賀(はしかが)。
彼の仇を討つために、麻疹賀の第一子である出若丸(でるわかまる)を守り立て、頭痛駿河守耳成(ずつうするがのかみみみなり)、鼻血登之助(はなぢのぼりのすけ)、当時大便大分堅成(とうじだいべんのだいぶかたなり)といった麻疹軍武将が、城主の篠木兼足(しのぎかねたる)を責め立てるところから、物語はスタートします。
勢力を増しつつある麻疹軍に対し、朝廷は、梨子高色大納言(なしのたかじきだいなごん)と枇杷少将高売卿(びわしょうしょうたかうりきょう)を使いとして討伐命令を出します。
討伐軍の総大将は本道医者(=内科医)の守末吉、他にも藪医隙(やぶいひま)の守供無(かみともなし)、匕加減下手成(さじかげんへたなり)が名を連ねます。
なんだか頼りなさそうな軍勢ですが、案の定麻疹軍の誇る猛将、真竹八九郎笋寒(またけはちくろうしゅんかん)に大いに苦戦してしまいます。
しかし、最後はヒーローが登場します。
討伐軍のピンチの中、美濃国大垣(岐阜県大垣市)の十三味蘭方テリアカ(そさみらんぽうてりあか)という者が一騎当千の働きを見せ、麻疹軍を一網打尽にしました。
かくして、麻疹軍は再び打ち倒され、世に平和が戻ったといわれています。
麻疹賀散退記の登場人物元ネタ解説
麻疹賀散退記の登場人物は、麻疹(はしか)に関係する食材や症状がモチーフになっています。
推測も含みますが、その特徴的なキャラクター達の元ネタを解説します。
また、もし麻疹賀散退記がドラマCD化したときの担当声優も想像してみました。
<麻疹軍>
- 出若丸(CV:大地葉)=発疹が出ることから?
- 頭痛駿河守耳成(CV:浪川大輔)=頭痛、耳鳴り
- 鼻血登之助(CV:小野坂昌也)=鼻血
- 当時大便大分堅成(CV:木内秀信)=便秘
- 真竹八九郎笋寒(CV:稲田徹)=タケノコ
タケノコは、当時はしかに感染したら食べてはいけない食物禁忌の一つでした。また、出版された5月はちょうどタケノコの出荷時期と重なります。
<討伐軍>
- 梨子高色大納言(CV:若本規夫)=梨
- 枇杷少将高売卿(CV:諏訪部順一)=ビワ
- 守末吉(CV:関智一)=薬を取り扱うのは内科医です
- 守供無(CV:小野友樹)=ヤブ医者(下手くそな医者)①
- 匕加減下手成(CV:江口拓也)=ヤブ医者②
- 十三味蘭方テリアカ(CV:岡本信彦)=蘭方(オランダ由来)の治療薬テリアカとオランダ語で「化学」を意味する「舎密(せいみ)」から?
梨とビワは麻疹に良い食べ物だと言われていました。さらに、二人の位が高い理由は、当時の梨とビワの値上がりにかけているのかもしれません。
テリアカが美濃国大垣の生まれである理由は、大垣藩医であった江間蘭斎をモチーフにしているからかもしれません。
江間蘭斎は、杉田玄白から蘭方を、そして前野良沢から蘭学を学んだエリート医師で、物語が書かれた頃は名医としてその名が知られていました。
テリアカは、古代ローマ帝国で発明された万能治療薬で、日本には戦国時代ポルトガルから伝来したとされています。
ヨーロッパでは貴重薬として19世紀頃まで用いられ、はしかの疱瘡(赤いブツブツ)に効くと用いられ始めていました。
3. 擬人化という手法はやっぱり身近な存在。参天製薬「アイドロップス」を例に
今、企業や製品の宣伝やイメージアップを図るために、擬人化が多く見られるようになってきました。
カップ麺、駅、艦船、鉄道、刀、国などなど。
それらは有機物、無機物、概念など形を問いません。
そして2016年9月、医療用眼科薬で知られる「参天製薬」が、目薬の成分を擬人化する「アイドロップス」というキャンペーンを始めました。
公式サイト:アイドロップス-参天製薬
200年以上経っても考えることがほとんど同じというのは、どこか微笑ましい光景です。
ついでに私は、10人のメインキャラクターの中だと、ビタミンB12ちゃんが好きです。