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2017年1月25日更新

変形性股関節症の手術。自骨を活かす「関節温存手術」の種類と方法・体験談

変形性股関節症が進行し、保存療法では効果が見られずに日常生活に支障をきたしている時などは、次の段階として「手術療法」が検討されます。今回は自分の骨を活かす「関節温存手術」の種類やその方法、術後の経過の他、患者さんの体験談をご紹介します。
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手術の種類・時期はどう決める?症状の進行・治療状況・痛み・生活スタイル等から判断

変形性股関節症は進行性の疾患であるため、症状の進行によっては時期を見て手術が必要になる事もあります。

手術は、主に薬物や運動などの保存療法の治療効果が少ないと思われる時日常生活への支障が大きくなってきた時などのタイミングで検討されます。

一言に「変形性股関節症」といっても傷みの感じ方や症状の進行具合は患者さんによってそれぞれ違います。

発症して数年で手術が必要になる方もいれば、中には発症して何年も経ち、かなり骨の変形が見られてもそれほど痛みを感じていない患者さんもいます。

骨の変形があれば必ずしも手術が必要ということではなく、痛みなどの変形性股関節症の症状によって患者さんの行動が制限されるなどQOL(Quality of Life:生活の質)が下がっているかどうかということが手術を行う大きな決め手になります。

また、症状以外にも、患者さんによって年齢職業家庭環境生活スタイルなどはさまざまで、手術から復帰までにかけられる時間も異なります。

手術を担当する医師は患者さんと十分なカウンセリングを行い、これらの患者さんの生活状況や希望も考慮した上で、それぞれの患者さんにとって最も適した手術法や時期を決定することになります。

変形性股関節症手術は「関節温存手術」と「人工関節置換術」の二種類

変形性股関節症の手術方法の選択は、まず大きく分けて「関節温存手術(かんせつおんぞんしゅじゅつ)」「人工関節置換術(じんこうかんせつちかんじゅつ)」の2つに大別することから始まります。

その名の通り、関節温存手術は自分の関節(骨)を温存する手術、人工関節置換術は関節の全体、又は一部を人工の関節に取り換える手術です。

それぞれの手術には特徴やメリットデメリットがあり、患者さんの状態によってどちらの手術を行うかが選択されます。

まず今回は「関節温存手術」について詳しくご説明したいと思います。

「関節温存手術」は進行具合によって方法が異なる。

関節温存手術は、患者さん自身の骨を活かして行う手術のため、別名「自骨手術(じこつしゅじゅつ)」とも言われます。

自骨手術はさらに「関節鏡手術(かんせつきょうしゅじゅつ)」「骨切り術(こつきりじゅつ)」の二つに分けられます。

簡単に言ってしまうと、関節鏡手術は傷んだ関節を修復する手術で、骨切り術は骨を切って適正な形に整形する手術です。

それぞれどんな患者さんに向いている方法なのか、手術内容について見てみましょう。

【関節温存手術① 】関節鏡手術~小さい切開で済み、患者さんの身体のダメージが少ない。

関節鏡手術は、股関節の周辺に2~3か所、1㎝ほどの孔(あな)をあけ、直径5mmほどの「関節鏡」という内視鏡を挿入して行います。

挿入する内視鏡の先端には小型のカメラがついており、関節の内部画像をモニターに映しながら、別の孔から挿入した手術器具を操作して行われます。

関節鏡手術では、主に以下のような処置が行われます。

◆骨棘(こっきょく)の切除

傷んだ骨を修復しようとして出来た突起状の骨である骨棘をきれいに削って骨同士の適合を良くする。

◆関節唇部分切除術(かんせつしんぶぶんせつじょじゅつ)

関節内の炎症が起きている滑膜(かつまく:関節を包んでいる膜)や関節唇(かんせつしん:寛骨臼の臼蓋の周りをとりまいている組織)という部分を切除する。

◆関節デブリドマン

関節内で浮遊し、痛みの元になっている関節ネズミ(軟骨のかけら)を取り除く。

◆関節授動術(かんせつじゅどうじゅつ)

股関節の動きを悪くしている腸腰筋(ちょうようきん:大腿骨と腰椎のまわりにある筋肉群で股関節を曲げる役目をもつ)の(けん:繊維状の組織で骨と筋肉をくっつける役目をしている)を切り離して可動を広げる。

関節鏡手術は、基本的に全身麻酔で行われ、2~3時間ほどで終了します。

小さな切開ですむため、術後の痛みも少なく、患者さんの身体への負担が少ない手術法です。

初期から末期の時期を問わず、若い方から高齢者まで年齢に関係なく受けることができるので、人工関節置換術や自骨手術であっても骨切り術のような侵襲(しんしゅう:処置による体への影響)の大きい手術ができない患者さんの場合や、患者さんがそれらの手術を希望しない場合に選択されます。

手術中の処置として、関節軟骨を保護する目的で股関節に水を入れるため、術後、しばらく股関節周りにしびれ、腫れといった症状が残る場合がありますが、時間の経過とともに次第に消失します。

以上のように、患者さんの身体に優しい関節鏡手術ですが、その目的はあくまでも「痛みを取り除き進行を遅らせること」です。

完治を目指す手術ではないので、手術を受けた患者さんであっても再発することがあります。

そのため、いずれ再手術になったり、場合によってはさらに段階の進んだ「人工股関節置換術」が必要になるケースもあることを知っておくことが大切です。

また、高度な技術が必要で、医師の技量の差も出やすい手術のため、症例数が多く経験を積んだ医師を見つけることが大切です。

関節鏡手術説明

(引用)神奈川リハビリテーション病院

※こちらの病院では幅広い診療科のリハビリ医療を提供し、リハビリ訓練で社会復帰を応援しています。特に変形性股関節症に対するリハビリは定評があります。

(参考)東京医科大学整形外科 スポーツ・関節鏡グループ

※こちらでは多種多様なスポーツのケガの治療やパフォーマンスの向上を目的に、アスリート一人一人に合わせたオーダーメイドのメディカルサポートを行っています。

【関節温存手術②】 骨切り術~骨盤側を切るケースと大腿骨側を切るケースの2パターン。

骨切り術とは患者さん自身の骨を部分的に切り取って必要な場所に移し、股関節の形を整える手術法です。

主に50~60歳以下(病院によって異なる)の比較的若い患者さんで、発症初期のそれほど変形が起こっていない場合に行われることが多くなります。

骨切り術の中には、股関節の骨盤側の骨を切るケースと大腿骨側を切るケースがあります。

骨盤側を切る方法として、代表的なものに「寛骨臼回転骨切り術(かんこつきゅうかいてんこつきりじゅつ:RAO)」があります。

初期や前期に行われることが多いこの手術は、骨盤にある大腿骨の骨頭(こっとう)の受け皿である臼蓋(きゅうがい)という骨の一部をくりぬいて外側に回転させ、はみ出ていた骨頭がきちんと納まるようにするものです。

手術の所要時間は2時間ほどですが、全身麻酔をして行われます。

術後はリハビリのため、1~2ヶ月の入院が必要で、切り取った骨が完全に接着するのに時間がかかり、しばらく杖が必要になる場合もありますが、再手術することはまずありません。

骨切り術①
(引用)関節が痛い.com

※こちらのサイトでは関節に起きる痛みなどの症状、人工関節などの治療法や専門医の先生のお話など患者さんに役立つ様々な情報が掲載されています。

上記の寛骨臼回転骨切り術が初期に行われるのに対し、進行期に入っている場合には以下のような手術法が選ばれます。

◆キアリ式骨盤骨切り術

股関節のすぐ上の骨盤を横に切り、下の骨を押し込んでずらすことで新しく骨頭を覆う臼蓋を作る

◆臼蓋形成術(きゅうがいけいせいじゅつ)

臼蓋が浅く、大腿骨が納まりきらない部分に自分の骨を移植し、すっぽりとかぶるように臼蓋を形成する。

◆内反骨切り術(ないはんこつきりじゅつ)

大腿骨側を切る方法。大腿骨を内側からくさび形に切り取って金属のプレートで固定し、骨頭が臼蓋にうまく納まるように骨の傾きを調整する。

外反骨切り術(がいはんこつきりじゅつ)

大腿骨側を切る方法。大腿骨を外側からくさび形に切り取って金属のプレートで固定し、骨頭が臼蓋にうまく納まるように骨の傾きを調整する。(※内外どちら側を切るかは患者さんの股関節の状態によります。)

 

進行期骨切り術
(引用)関節が痛い.com

以上のように複数の方法がある骨切り術ですが、どの手術法も根本的な目的は同じで「臼蓋と骨頭が正しい位置に納まるように矯正する事」です。

手術を行うことにより、骨頭が臼蓋の適正な位置におさまるようになると、骨同士の接触する面積は広くなります。

すると、これまで一か所に集中していた負担を分散させることができ、痛みや軟骨のすり減りを緩和することができるのです。

(参考)神奈川リハビリテーション病院

(参考)慶応義塾大学病院 医療・健康情報サイト

※こちらは慶応義塾大学病院の医師や医療スタッフによって作成された医療と健康情報を提供しているウェブサイトです。

手術中や手術後に考えられる「合併症」と回避するための病院の対策

股関節の手術で気を付けなければならない合併症には、まず手術中の「出血」や手術後におきる「感染症」があります。

特に骨切り術は切開部分が大きいため、手術中に出血が多くなることがあります。

そのため、手術時は自己血貯血(じこけつちょけつ:前もって自分の血液を採血して、必要時にそれを輸血する)や回収式自己血輸血(手術中や手術後に出血した血液を回収して、余分なものを取り除き、輸血する)などの処置で対応します。

また、手術中、関節内に菌が入り感染を起こす危険性があるため、病院では、無菌状態のクリーンルームなど細菌が入り込まない環境下で手術が行われる他、予防的に抗生物質の投与が行われます。

さらに、手術後しばらくは安静を続けることが必要ですが、このような安静時に起こる合併症もあります。

長時間の安静が続くことで、下半身の血流が悪くなるため、「深部静脈血栓症(しんぶじょうみゃくけっせんしょう)」「肺梗塞症(はいそくせんしょう)」を起こすことがあるのです。

深部静脈血栓症とは血管内に血栓と言われる血の塊ができてしまうことで、それが肺にまわり血管が詰まってしまう状態が肺塞栓症です。

これらの合併症を起こさないようにするためには、なるべく早くリハビリを開始することが大切ですが、手術後間もなくて、まだリハビリを始められない時期には「フットポンプ」という人工的な装置を使って足の血流を停滞させないようにする他、弾性ストッキング(足を圧迫し、血流を良くする医療用ストッキング)の着用や血栓予防薬の服用などを行います。

このように、入院中は合併症が起きないようにたくさんの医療スタッフによって管理されているため、それほど発症率は高くありません。

(参考)大阪市立大学大学院医学研究科 整形外科学

※こちらの病院では、年間100例前後の症例数を持ち、最新の技術や装置を取り入れて、保存療法から手術までトータルな治療に取り組んでいます。

重要なのは手術後のリハビリ!

関節鏡手術も骨切り術も、術後のリハビリが非常に重要で、リハビリをきちんと行うかどうかは予後の状態にも大きく影響します。

関節鏡手術は術後、身体への負担が少なく2~3日程度で歩き始めることが可能ですが、その後、2~4週間の入院が必要で股関節の可動域を広げる運動を中心にリハビリを行います。

この術後リハビリをしっかりと行うことで手術の治療効果が高まり、状態を長持ちさせることが可能です。

骨切り術の場合は、骨の切断を行っているため、癒合(ゆごう:骨同士の接合面がしっかりとくっつく)まで1~2か月間の入院が必要になります。

最初はごく軽い股関節への負荷の運動から始め、段階的にその負荷を増やしてゆき、最終的には全体重がかけられるようになる事を目指します。

どちらの場合もそれぞれの患者さんに合ったストレッチや体操を専門の理学療法士の指示に従って行うことが大切で、ゆっくり焦らずリハビリに取り組みましょう。

【体験談】寛骨臼回転骨切術の手術後のリハビリの大変さ。

十数年前から、両股関節に違和感はあったものの、大したことではないと思い放置しておりました。
しかし、6年前から軽度の痛みを感じるようになり地元の整形外科を受診したところ、変形性股関節症が発覚し、まだ初期の段階ですが、今のうちに自骨手術で状態を良くすることで、進行を防ぐことができる…と言われましたが、当時踏み切れず、気にしながらも放置。1年後にまた痛みが強くなり手術、入院の決意をして大学病院に紹介状を書いていただき、そちらを受診しました。

紹介していただいた医師は、ネット検索で「股関節、名医」で名前の出る程の腕なのか、受診から手術日まで半年待ちくらいでした。
術前検査を受けてから1週間後に入院、初日に事前説明等があり、翌日は手術に備えて必要事項の確認、翌々日にいよいよ手術を行いました。
術式は「寛骨臼回転骨切術」と言い、簡単に説明すると、大腿骨頭を覆ってるいわゆる「屋根」部分を自骨で補う。といった方法でした。

手術時間、約2時間と言われましたが、さすが名医と呼ばれる執刀医、2時間未満で終了したそうです。

術後、丸3日寝たきり状態で、これがかなり苦痛でしたが、いざ動かしてみよう…となった時、これまたかなりの激痛で雄叫び挙げる程でした(笑)当時看護師さんに言われたのが、「骨折した状態を固定なしで動かすんだから酷よねー」…なるほど…と思いました。

その痛みも時が過ぎれば段々楽になり、リハビリも順調に進み、3週間頃から徐々に松葉杖を使って歩行訓練、うまくいけば入院から6週間ほどで退院し、日常生活に戻れます。当面の課題は術後落ちた筋力の強化ですが、これは何年経っても課題のままのような気がします。

退院後は1ヶ月後の受診で、松葉杖が片側のみになるか判断されます。徐々に加重制限が和らいで行き、次は3ヶ月後に普通の杖になり、術後半年経過くらいで普通歩行が可能….が理想ですが、なかなかうまく歩けず、そこは苦労しました。

現在5年経過してますが、年1回の定期検診は永遠に続きます。
関節の病気は完治という言葉が当てはまらないので、今後の経過次第ということになります。

今のところ、痛みがゼロではありませんが、手術前に比べて楽にはなったことは良かったです。やはり、体力と筋力の低下と回復にはかなりの努力が必要かと実感しつつあります。

(参考)変形性股関節症で手術

医師任せではなく、患者さんが納得して手術を受けることが大切。

どんな手術法であっても医師から体にメスを入れる「手術」を勧められると、誰でも不安になってしまうものですが、不安を持ちながら手術を受けることは精神的にもよくありません。

それぞれの手術方法やメリットやデメリット、術後の経過など、疑問や不安に思うことは、どんなに小さなことであっても、主治医の先生にとことんぶつけ、解消しておきましょう。

変形性股関節症の手術には今回ご紹介した関節温存手術の他、冒頭でご紹介した「人工関節置換術」という選択肢もあります。

関節温存術でも骨切り術は人工関節置換術に比べて、リハビリや入院期間が長くなります。

そのため、若い方であっても介護をされている方や小さなお子さんがいらっしゃる方には適さないこともあり、実際、人工関節置換術を選ばれる方もいらっしゃいます。

状況によっては他院にセカンドオピニオンを求めることも必要かもしれませんが、現在では、症例数の多い病院や設備などはネットで簡単に検索することができます。

変形性股関節症の手術は、患者さんが抱えている痛みなど今の辛い症状を改善し、毎日の生活を快適にするために行うもの。

信頼できる医師を見つけるとともに、ご自身でも治療の知識を深め、納得して手術を受けられるようにしましょう。

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