1.ワクチンや特効薬のない「RSウイルス」。まずは徹底した予防が肝心!
毎年、秋頃から翌年の春先まで長期に渡り流行する「RSウイルス感染症」。
発熱、鼻水、咳など、風邪に似た症状で、1歳までに約50%、2歳までにはほぼ100%の子供がかかると言われるほど感染力の強い「急性呼吸器感染症」です。
RSウイルスは、一度罹患しても完全な免疫が出来るわけではないので、年齢を問わず繰り返しかかることもありますが、初感染の時が一番症状が重くなるケースが多いことが分かっています。
母体からの免疫も効果なし!月齢が低いほど重症化の可能性が。
発症年齢が上がれば、軽い風邪症状で済むことが多く、それほど心配することはないRSウイルスですが、小さな乳幼児にとっては油断ができない疾患です。
なぜならば、RSウイルスは、お腹の中にいる時にお母さんからもらった免疫も効果がなく、むしろ、月齢が低くなればなるほど重症度が高まる傾向があるからです。
特に、生後数週間~6ヶ月以内の赤ちゃんが発症した場合、「無呼吸(呼吸が止まる)」を引き起こしたり、「肺炎」「気管支炎」を併発するなど、重症化する可能性が高くなります。
また、乳児以外にも心臓や肺に持病がある場合、免疫不全の場合、また、免疫力や抵抗力が低くなっている高齢者の場合も同様に、ハイリスクになるので注意が必要です。
RSウイルスの治療は風邪と同じ「対症療法」だけ。
残念ながら今現在、RSウイルスを治す特効薬や予防接種(ワクチン)はまだありません。
そのため、一度発症してしまうと風邪と同じように対症療法を行うしかないのが現状です。
だからこそ、まだ体内の免疫システムの弱い乳幼児(特に6ヶ月以下)のお子さんや高齢者などは、まず第一に「罹らないように予防する」ということが大切。
家族やその周囲の人から感染してしまうことがないように、徹底した予防で「病原体となるウイルスを近づけないこと」がより一層、重要になってくるのです。
RSウイルスの感染経路や感染力はこちらの記事を参照してください。
生後6か月未満&初感染は重症化も!RSウイルス感染症の症状・感染経路・体験談
(参考)国立感染症研究所 RSウイルスとは
※こちらのページではRSウイルスの症状や治療法などについて詳しい情報を見ることができます。
2.RSウイルスを寄せ付けないために!感染経路をシャットアウト
RSウイルスは、はしかや水ぼうそうのように「空気感染」することはありませんが、ウイルスが付着したおもちゃやタオル、コップ、家具など物を共有することで起きる「接触感染」、または感染者のくしゃみや咳などのしぶきを浴びたり、吸い込んだりすることで起きる「飛沫感染」で発症します。
RSウイルスの感染力は非常に強いため、寄せ付けないためにはこれら二つの感染経路をしっかりブロックしていく事が肝心です。
接触感染を防ぐには。何でも触れちゃう赤ちゃんだから、こまめな消毒を!
いったん、おもちゃや家具などに付着したRSウイルスは、4~7時間程度、感染力が持続します。
0歳や1歳の頃の赤ちゃんは、周りにあるものを何でも触ったり、口に入れたりしてしまう事が多いので、うっかりウイルスが付着した物を触って、ウイルスに感染してしまう可能性も高まります。
RSウイルスは、「アルコールや塩素系などの消毒薬に対する抵抗力が弱い」という特性を持っています。
赤ちゃんが日常的に触れるおもちゃや家具は、消毒スプレーなどで、こまめに消毒を行い、家族共用のお手拭き用のタオルなど洗えるものは、こまめに洗濯を心掛けましょう。
また、外で付着したウイルスを家の中に持ち込まないためにも、外から帰った後は、家族全員が「丁寧な手洗い、うがい、消毒」をセットで行うようにすることも大切です。
さらに、RSウイルスは口や鼻以外に目からも感染すると言われています。普段から手で眼をこすったりしないように気を付けましょう。
飛沫感染を防ぐには。呼吸器症状をもっている方は日常的なマスク着用を!
RSウイルスは学童期の子供や大人でもかかりますが、鼻風邪程度で済んでしまうことが多いため、本人もRSウイルスとは知らずに免疫がない乳幼児に感染させてしまう可能性があります。
RSウイルスが流行している・いないにかかわらず、少しでも風邪症状が出ている時は、なるべく赤ちゃんに接触しないよう、日頃から気を付けましょう。
たとえ風邪症状が治まっても1~3週間程度はウイルスが体内に残っています。その間も、ウイルスの感染力は残っているということも忘れないようにしましょう。
とは言え、お世話をしなければならないパパやママの場合、全く近づかないというのは無理なことですよね。
風邪症状が出始めた時は、マスクで咳などがかからないようにし、毎回しっかりと手を洗ってウイルスを落としてから、赤ちゃんのお世話をするようにしましょう。
また、不特定多数の人がいる場は、ウイルス感染のリスクも大。いつもらってしまうか分からないので、風邪が流行っていたり、感染リスクが高い時期には、むやみに人込みに連れて行かないことも大切です。
喫煙者は要注意!タバコの煙も症状悪化の要因に
さらにもう一つ!忘れてはいけないのが「タバコの煙」。
タバコの煙は気道を刺激し、RSウイルスの症状を悪化させる要因の一つと考えられています。
赤ちゃんは自分で煙から逃げることはできません。
ご家族にタバコを吸う人がいる場合は、普段からお子さんに影響のでない場所(例えばベランダなど)で吸うなどの対策をとることが必要です。
赤ちゃんは突然体調を崩すこともあります。風邪気味の時だけでなく、日頃からいつもクリーンな状態が保てるように室内環境を整えてあげましょう。
(参考)国立感染症研究所 RSウイルスとは
(参考)厚生労働省 RSウイルス感染症Q&A
※こちらのページではRSウイルスに関するよくある質問について分かりやすい解説が載っています。
3.RSウイルス予防薬「パリビズマブ(シナジス)」の効能、保険適応は?
ここまでRSウイルスの予防法についてお伝えしてきましたが、今度はRSウイルスを予防する薬についてご説明していきましょう。
1998年、アメリカで「パリビズマブ(商品名:シナジス)」というRSウイルスの予防薬が開発され、日本でも2002年から使用できるようになりました。
これは、RSウイルスの感染を予防するために遺伝子組み換え技術によってできた薬で、まだ、免疫力が弱く、自分では「うがいや手洗い」といった自己防衛もできない赤ちゃんにとっては画期的なお薬です。
シナジスは体内で抗体を作らせる「ワクチン」ではなく、「抗体そのもの」
シナジスは、RSウイルスの流行期間に行う筋肉注射で、感染の予防や重症化を防ぐ効果があります。
約1,500人の乳幼児を対象に行った研究では、プラセボ(偽薬)を投与した赤ちゃんのRSウイルス感染による入院が10.6%だったのに対し、シナジスを投与していた赤ちゃんでは4.8%と低く抑えられたというデータもあります。
「あれ?予防接種はないはずでは……。」と不思議に思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか?
確かに「予防する」という意味では同じですが、シナジスは予防接種(ワクチン)ではありません。
通常のワクチン(予防接種)が「弱毒化した病原体を体内に注入し、体に備わった免疫システムに抗体を作らせ病気にかかりにくくするもの」であるのに対し、シナジスは遺伝子の組み換えによってできた「抗体そのもの」を注入するというもの。
これは、RSウイルスは体内で抗体ができにくいという特徴があるためです。
注入された抗体の効果は1ヶ月程度。そのため、流行時期に合わせて、1ヶ月ごとに定期的に再投与する必要があります。(約6ヶ月間、合計6回程度)
シナジスは、RSウイルスにしか効果がない抗体なので、他の予防接種(ワクチン)には影響を与えることはなく、同時に受けることも可能です。
高額なシナジス。保険適用は重症化のリスクが高い乳幼児のみ。
ただし、このシナジスはとても高額な薬であり、費用は接種する乳幼児の体重によって変わります。
例えば、体重3kgの赤ちゃんの場合、1回につき8万円弱もの費用がかかり、それを月に1回、半年程度続けなければなりません。(体重が増えた場合はさらに費用もUP)
しかも、現在、健康保険の適用が認められているのは以下の条件に当てはまる「RSウイルスにおけるハイリスク児」のみ。(※お住いの地域によってはさらに乳幼児医療費支給制度が利用できる場合もあり)
・在胎期間28週以下の早産で、12カ月齢以下の新生児及び乳児
・在胎期間29~35週の早産で、6カ月齢以下の新生児及び乳児
・過去6カ月以内に気管支肺異形成症の治療を受けた24カ月齢以下の新生児、乳児及び幼児
・24カ月齢以下の血行動態に異常のある先天性心疾患の新生児、乳児及び幼児
・24ヵ月齢以下の免疫不全を伴う新生児,乳児および幼児*
・24ヵ月齢以下のダウン症候群の新生児,乳児および幼児*
保険適用外の場合、費用的な負担が大きいため、現実的に利用できるケースは限られますが、実際の投与にあたっては、医師の判断に従って行うようにしましょう。
また、シナジスの注射を受けているからといって、消毒などの基本的な予防対策を怠ることは禁物!
消毒やマスク着用などの予防対策は引き続き行うようにしましょう。
【体験談】早産児がシナジス接種の前にRSウイルスを発症!接種後は軽症で済むように。
子供は早産で生まれ、低体重児でしたので出産後の退院時にRSウイルスとそれに対する予防接種シナジスの説明を受けていました。
シナジス接種の前、生後4ヵ月の頃40度の熱と呼吸がぜーぜーしていたので小児科を受診、検査の結果RSウイルスでした。高熱でかなり辛そうだったのですが生後4ヵ月には解熱剤は使えないとのことで薬の処方なし。ミルクはいつもより少ないですが飲めているので入院は避けられました。
それから自宅で診ていましたが、5日間40から42度の熱が続きました。
シナジス接種開始した後も数回RSウイルスにかかっていますが、症状は鼻水・咳くらいで高熱が出ることはほとんど無くなりました。
RSウイルスは本当に感染しやすいので特に冬場は人混みを避けるなど気をつけないといけないです。
(参考)横浜衛生研究所 RSウイルスによる気道感染症およびパリビズマブ(シナジス)について
※こちらのページではRSウイルスの解説や予防薬シナジスについて詳しく説明されています。
(参考)RSウイルス感染症と乳児の細気管支炎・シナジス注射
※こちらのサイトではシナジス注射について詳しい情報を見ることができます。
(参考)医療法人将優会 クリニックうしたに 健康プラザ RSウイルス
※RSウイルスについての情報が分かりやすくまとめられています。
4.大切な赤ちゃんやご家族が苦しまないために
ここまでRSウイルスの予防法と予防薬についてご紹介してきました。
この病気の怖さは、非常に感染力が強い上に、インフルエンザのように特効薬がないということ。
また、初期症状は軽い風邪と見分けにくいことや、大人や大きな子供にとっては軽症で気付きにくい病気であることも、感染を広げる原因となっています。
小さな赤ちゃんはもちろんのこと、持病をお持ちのお子さんや高齢者の場合、本人だけでは十分な予防対策が取れないのが現実です。
大切な家族をRSウイルスから守るためには、ご家族や周囲の方が日頃から協力して環境を整え、感染予防の対策を怠らないようにしていく事が何よりも大切なのです。