性器ヘルペスは妊娠時の再発が多い。妊娠中新たに感染するケースも。
性器ヘルペスは単純ヘルペスウイルス(HSV-1,HSV-2)という感染力が強いウイルスが原因の性感染症です。
発症すると性器やその周辺に水疱や潰瘍ができ、痛みやかゆみなどの不快な症状を引き起こします。
一度感染すると、ウイルスは半永久的に体内に住み続け、免疫力が落ちている時に再発することがあります。
妊娠中はお腹の赤ちゃんを守るために、ホルモンバランスが変化して身体の免疫力が低下します。
免疫力が高いままであると身体がお腹の赤ちゃんを異物とみなして、体内から排出しようという力が働いてしまうためです。
その影響から妊婦さんは風邪などをひきやすくなることがありますが、性器ヘルペスもまた例外ではありません。
普段は骨盤内の神経節(末梢神経の集まる場所)に潜んでいるウイルスが、免疫力の低下によって再度活性化し、妊娠中に再発することが多いのです。
また、これまで感染していなくても免疫力が落ちている妊娠中に性行為などを通じて新たに感染してしまうケースもあり(初感染)、初感染の場合は特に症状も激しく出るため十分な注意が必要です。
(参考)国立感染症研究所 感染症の話
性器ヘルペスの詳しい情報は以下の記事で詳しく説明しています。
男性も女性も発症の危険性が!性感染症「性器ヘルペス」の原因、症状とは?
性器ヘルペスは母子感染の新生児ヘルペス発症の危険性。
単純ヘルペスウイルスは母子感染します。
分娩時の妊婦さんが性器ヘルペスを発症していると、胎児にも感染して重篤な「新生児ヘルペス」を発症する危険性があります。
しかし、子宮内で胎児に感染するのは極めて少ないので、妊娠中であっても妊娠初期や中期であればそれほど心配ありません。
胎児のヘルペス感染は、分娩時、産道を通る際に感染するケースがほとんどであり(経産道感染)、出産が近くなる程、その確率が高まります。
また、胎児へのウイルス感染の確率は、妊婦さんの性器ヘルペスが再発か初感染かによっても異なります。
再発の場合は0~3%と決して高くはありませんが、初感染の場合は30~60%程度と大幅に確率が高くなります。
新生児ヘルペスとはどんな病気?
生後28日までの間に発症する新生児ヘルペスは、ウイルスが血液を通して全身にまわり発症する病気で、治療を行わないと高い確率で死に至ります。
日本国内では1~2万人に1人と発症の確率は高くありませんが、抗ウイルス剤による治療を行っても全発症数の30%は死亡する恐ろしい病気です。
新生児ヘルペスは「表在型」「中枢神経型」「全身型」の3つの型があります。
「表在型」は、皮膚や口など部位を限定して水疱などができる軽症で、後遺症もほとんどありません。
「中枢神経型」の場合、ウイルスは全身にまわらないものの中枢神経に入り込んでしまい、脳症を引き起こします。
「全身型」はウイルスが全身に回ってしまうため、発熱、多臓器障害、呼吸不全など、一番症状が重くなります。
全発症数の中でもとりわけこの「全身型」の発症率が高く、全体の70~80%を占めています。
特に妊婦さんの発症が初感染の場合、このような重篤な症状が出るケースが多くなっています。
これはまだウイルスに対して母体の抗体ができておらず、新生児にもその抗体が移行しないためと考えられています。
(参考)妹尾小児科 単純ヘルペスウイルス感染症
※小児科の単純ヘルペス感染症について紹介しているページです。「新生児ヘルペス」について詳しく書かれています。
妊婦さんの性器ヘルペス発症時。病院の対応は?治療は外用薬が中心。
基本的に妊娠中は薬の服用を控えるため、内服薬ではなく、抗ウイルス剤含有の外用薬(アシクロビル)を使い、経過観察をします。
妊婦さんが初感染で症状が重い場合には、抗ウイルス剤(アシクロビル)の内服薬で治療を行う場合もあります。
中期を過ぎていれば、抗ウイルス剤の内服薬であっても胎児の発育などに影響はないとされています。
再発を繰り返して分娩時までに症状が治っていないと胎児の経産道感染のリスクが高まります。
「妊娠中だから」と一概に服薬を避けるのではなく、医師が必要と判断した際は、決められた用法・用量を守って服用しましょう。
「日本産婦人科学会のガイドライン」では分娩時に性器ヘルペスの症状が見られる時や、初感染から1ヶ月以内、再発から1週間以内の場合は赤ちゃんへの感染のリスクがあるとして普通分娩ではなく、帝王切開をすすめています。
これらの時期はウイルスが多く排出されている可能性があり、産道を通さずに赤ちゃんを取り出すことで、赤ちゃんをウイルス感染のリスクから守る措置が取られます。
妊娠中の再発や初感染を防ぐため気を付けたいこと。
これまでご説明してきた通り、免疫力が低下している上に、発症時には治療が十分に行えない妊婦さんは、まず、再発や初感染をしないように予防することが重要です。
一度治ったと思っても妊娠中に数回、再発を繰り返す妊婦さんもいらっしゃいます。
妊娠が判明した時から分娩までの全期間を通し、以下のような点に気を付けて体調管理をするようにしましょう。
①規則正しい生活を送る。
免疫力が落ちやすい妊娠中は、栄養バランスのとれた食事を心がけ、睡眠時間をしっかりとることで体力の低下を防ぎましょう。
基本的なことですが、薬の服用を控えたい妊婦さんには毎日の規則正しい生活が、性器ヘルペスだけに限らず風邪やそのほかの病気の予防にもなります。
②妊娠中の性行為。発症時、妊娠後期は控える。
妊娠中、性器ヘルペスの症状が出ている時は、パートナーが感染する恐れがあるため性行為は控えましょう。
症状が見られない時であれば可能ですが、ウイルスの排出が続いていることもあるためコンドームの使用を忘れないようにしましょう。
妊娠後期に、万一、性器ヘルペスを再発(発症)してしまうと分娩時にまで影響する恐れがあるので控えましょう。
③精神的なストレスをためない。
妊娠中は、お腹の赤ちゃんのことを考えると心配事が尽きないものですが、必要以上に心配し過ぎることは再発のリスクを高めます。
もしウイルスを持っていたとしても、きちんと体調管理をすることである程度はコントロール出来ます。
万一発症してしまったとしても主治医の先生の指示に従って適切な措置を行うことで、出産への影響を減らすことも可能です。
あまり気にし過ぎず、日頃から「好きな音楽を聴く」「散歩をする」などご自身のリラックスできることを取り入れ、気分転換を心がけましょう。
④家族に発症者がいる場合、タオルなどの共用を避ける。
家族に性器ヘルペスの症状が出ている時、同じお風呂に入ることは問題ありませんが、タオルなどの共有をしないようにしましょう。
これまで感染していない妊婦さんであっても、身体の抵抗力が落ちている妊娠中に感染して発症する恐れがあります。
タオル類はしっかりと洗濯乾燥することでウイルスを落とすことが出来ます。
母乳による感染は少ない。出産後、赤ちゃんへの授乳は可能。
単純ヘルペスウイルスの母乳による感染は少ないため、発症していなければ授乳は可能とされています。
但し、単純ヘルペスウイルスはどこにでも感染する感染力の強いウイルスです。
万一、ママの乳房にヘルペス症状がみられる時は感染のリスクが高まるため、授乳を控えるようにしましょう。
また、ママが抗ウイルス剤の服用をしている時も、薬剤成分が母乳に移行する恐れがあるため、授乳は控えるようにします。
(参考)泌尿器科専門医 ドクター尾上の医療ブログ
※日本を代表する性感染症の専門家の先生のブログです。こちらのページではなかなか相談しづらい性器ヘルペスのQ&Aや症例の画像(写真)なども多数紹介されています。
可愛い赤ちゃんのため家族や主治医の先生と一緒に乗り越えましょう!
最後になりますが、性器ヘルペスを発症しても無事に乗り越え、元気な赤ちゃんを出産された方はたくさんいます。
妊娠中はどうしても不安や心配になる事があると思いますが、精神的なストレスは再発につながりますし、お腹の赤ちゃんにとっても良くありません。
一人で抱えこまずに、ささいなことでも心配なことはご家族や産婦人科の先生に相談にのっていただきましょう。
安心して出産に臨めるように、少しでも精神的な負担を減らしておくことが大切です。
女性の性器ヘルペスについては以下の記事でも詳しく説明しています。
女性の「性器ヘルペス」発症。正しい対処法や気になる妊娠出産への影響は?