過剰な手汗がコンプレックスに。「手掌多汗症」の症状、原因、治療法と体験談
多汗症は、顔や体に異常なほど大量の汗をかく病気です。
その中でもしたたり落ちるほどの手のひらの汗が原因で日常生活に支障をきたすものを「手掌多汗症(しゅしょうたかんしょう)」と言います。
なにかとよく使う手は、周りの人からも目につきやすい場所。それだけに手掌多汗症は患者さんにとって深刻な悩みで、長期にわたり悩み続けているという方も少なくありません。
しかしその一方で、病気だとは知らず、単なる「汗かき体質」だと思いこんでしまっている場合も多く、実際に医療機関を受診して治療を行う方は患者さん全体の一割にも満たないのが現状です。
そこで今回は、手掌多汗症の原因、症状、治療法などの情報を患者さんの体験談を交えながらご紹介していきます。
1.手掌多汗症(しゅしょうたかんしょう)とはどういう病気?
手掌多汗症(しゅしょうたかんしょう)の症状と特徴
手掌多汗症は、両手のひらに通常では考えられないほど多量の汗をかく病気です。
「手に汗握る」という言葉もあるように、誰でも緊張時や興奮時に一時的に手の汗が出ることがありますが、手掌多汗症の場合、発汗が止まらずいつも手が湿っている状態で、精神的な刺激が加わるとさらに発汗量が増加します。
一日の発汗量は、昼間(10時~18時)に多く、脳の活動が低下する夜間の睡眠時には汗もおさまるのが特徴です。
重症患者さんの場合、じっとしていても滴り落ちるほどの汗が出るため、「テスト用紙が濡れる」「パソコンやスマホが故障する」など、日常生活にも大きな支障をきたします。
指先が常に湿っているために血行不良になり、手の指が紫色調に見えることもあります。
また、汗疹(あせも)ができて、手の皮がボロボロとむけやすく、真菌や細菌の感染も起こりやすい状態になっています。
この病気の大きな問題は、一度汗が出始めると長時間止まらないということと、手汗を意識することで、更に発汗量が増えてしまうという悪循環に陥ってしまうこと。「他人と握手をすると不快感を与えるのではないか」という不安から対人関係や社会活動に自信が持てなくなるなど、患者さんの「生活の質(Quality of Life)」は大きく低下します。
(画像引用)公益社団法人 日本皮膚科学会 汗の病気―多汗症と無汗症
※手を洗った直後のように手のひらが汗で濡れて光っています。
手掌多汗症発症のメカニズム
手掌多汗症発症の詳しいメカニズムは未だにはっきりと分かっていませんが、手掌多汗症患者さんは、交感神経が正常な人に比べ興奮しやすいのではないかと考えられています。
自律神経の一つである交感神経には、発汗を促す働きがあります。しかし、なぜ反応が強くなるのか、その理由は分かっていません。
また、近年では、「家族に多汗症の患者がいる家系の方に発症数が多い」との報告が増えていることから、遺伝(家族性といいます)による発症もあると考えられるようになりました。
多汗症の患者さんの体内には、発病にかかわる何らかの遺伝子が存在し、影響を及ぼしていると考えられていますが、こちらもまだはっきりしたことは分かっておらず、今後の研究報告が待たれるところです。
10代の発症が多い !幼児期から発症するケースも
平成21年に行われた厚生労働省の調べでは、手掌多汗症の有病率は人口の5.33%。つまり日本国内には600万人を超える患者さんがいることになります。
この病気の大きな特徴は、子供の発症が多いということ。
手掌多汗症の発症年齢の平均は13.8歳となっていますが、中には物心つく前の赤ちゃんの頃から手足の多汗症状が見られることもあります。
小さなお子さんの場合は特に、手のひらの多汗が病気によるものだとはなかなか自覚できません。
また、その悩みを周囲の大人に相談しても「汗っかき体質」ということで片付けられてしまい、治療を受けることなく、悩みながら成長するケースも少なくありません。
ここで多汗症患者さんの体験談を3つご紹介します。
【体験談1】ひどい手汗がコンプレックスに。電化製品を壊さないためゴム手袋を着用。
当時はただの汗っかきだと思っていたのですが、手汗も酷くて常にノートや教科書、漫画や雑誌が濡れている状態でしたし、パソコンも汗で濡れて壊れてしまった事もあります。
高校に入り、恋人も出来たのですが手を繋ぐと緊張もあって手汗が酷くなってしまいます。汗が凄いとものすごい恥ずかしいですし、コンプレックスになってしまいました。
常にタオルは欠かせませんでしたし、本を読む際には手袋を履いて読む事が多くなりました。電化製品に触る時でも、汗で濡れて壊してしまう可能性があったので必ずゴム手袋をはいていました。
しかし、長くゴム手袋を履くと、手袋からコップ1杯分くらいの水が出てくる勢いで手汗が出てしまいます。
【体験談2】学校のプリントが汗で波打つ…。子供からの訴えで気付いた多汗症。
当時小学生だった子供から「手のひらから汗がたくさん出て困っている」と相談を受けました。
季節に関係なく、手のひらから汗が出てプリントの上に手を置くと汗の水分でプリントが波打ってしまうほどでした。手のひらは常に湿っている状態です。
子供と手のひらを合わせると汗でびちゃっとする程でした。
【体験談3】学校のレクリエーションで手をつなぐのが苦痛…。陰口を言われているかもと不安だった。
私は手汗が酷くて、携帯を持つだけで壊れてしまう程でした。パソコンを打っても汗が出てしまい、キーボードを何度も壊す事がありました。
特に、人と手を繋いだりする時は苦痛でした。小学生の頃に校内レクリエーションで、手つなぎ鬼ごっこをしたのですが、手を繋いだ子に汗を付けてしまい、何度も拭かれてしまったので本当に辛かったです。その後、陰口を言われているのではないかと不安になったりしました。
(引用)手汗でずっとダラダラと汗が流れてしまう。多汗症と診断されて注射による治療で改善しました さとざきです(30歳代・女性)
ご紹介した3つの体験談に共通しているのは、比較的、小さなころから症状に気付いていたということ。そしてどのケースも手汗が深刻な悩みとなり、学校生活や対人関係に大きな支障をきたしてしまっているということです。
幼児期~思春期にかけてのお子さんは、身体の成長だけでなく、自我の芽生えに伴い、徐々に他者との違いにも気付くようになる敏感な時期。多汗の悩みを抱えていることで、引っ込み思案になるなど、性格形成にも大きな影響を及ぼしてしまう可能性もあります。
お子さんの中には、汗が出ることに恐怖を感じてパニックになるケースや、恥ずかしさから症状を隠そうとするケースもあります。
学力低下やいじめ、不登校や引きこもりのような深刻な状況を招くこともあるため、もしお子さんに「多汗かも?」と思われる症状がある時には、早めに医師に相談するようにしましょう。
(参考)公益社団法人 日本皮膚科学会 汗の病気―多汗症と無汗症
2.なぜ過剰な汗が出るの?多汗症について
汗腺と発汗のしくみ
汗は、皮膚にある「アポクリン汗腺」と「エクリン汗腺」という二つの汗腺から分泌されるしくみになっています。
「アポクリン汗腺」は、脇の下や下腹部など、体の特定の場所にのみ存在する汗腺で、おもに精神的な緊張を感じた時などに発汗が起こります。
一方、「エクリン汗腺」は、アポクリン汗腺とは違い、全身に広く分布しているのが特徴。身体全体に約300万個あると言われており、手のひらに分布しているのもこの「エクリン汗腺」です。
エクリン汗腺のおもな働きは、身体の湿度や体温を一定に保つこと。気温や体温の上昇を感知すると、その熱を逃がすために発汗が起こります。
ちなみに、多汗症の方と健康な方の手のひらを比べても、エクリン汗腺の数や形、分布自体には大きな違いは見られません。
(画像引用)皮膚病治療情報・皮膚科教科書 あたらしい皮膚医学第2版
※こちらは最新の皮膚疾患や治療情報、皮膚科学が分かりやすく解説されている皮膚科の教科書です。
3つの汗の種類
私たちがかく汗には、「温熱性発汗」「精神性発汗」「味覚性発汗」の3つの種類があるというのをご存知でしょうか?
「温熱性発汗」は、体温調節をするために出る汗のこと。
健康な人の体は37℃前後で保たれるようになっています。そのため、気温が高い時や運動をして体温が上がった時には、脳の視床下部にある体温調節中枢から指令が出て、汗腺から汗を出して体温を下げ、体温の急上昇を予防します。
「精神性発汗」は、「テストを受ける」「大勢の前でスピーチをする」など強い緊張を感じる時や、スポーツ観戦や映画鑑賞などで興奮した時に出る汗のこと。
俗にいう「冷や汗」などもこのタイプで、緊張や興奮を感知すると脳の前頭葉や辺縁系という部分が刺激され、発汗が起こります。気温や体温の上昇に関係なく発汗するのが特徴で、手のひらや足裏などによく見られます。手掌多汗症の手汗も、この精神性発汗が何らかの理由で過剰に起こっているものと考えられています。
そしてもう一つ、「味覚性発汗」は、辛いものを食べた時、頭や顔などの上半身に出る汗のこと。
辛い料理に入っている辛みの成分の刺激を、口の中の温度が上がっていると勘違いした脳が、温度を下げるために発汗しようとしていると考えられています。
味覚性発汗は、辛い食べ物を避けることで汗をコントロールすることは可能です。
また、温熱性発汗は、生命を維持する上でも必要な生理現象であるため、故意に発汗を止めてしまうのは危険です。しかし、精神性発汗に関しては、
多汗症の分類
多汗症は発症原因や発症部位によって以下のように分類されます。
①発症原因による分類:「続発性多汗症」と「原発性多汗症」
続発性多汗症は、特定の病気がきっかけとなって発症する多汗症です。
もともと別の何らかの病気(※甲状腺機能亢進症、褐色細胞腫など)があり、その病気の合併症として多汗症状が起こるものを指します。
一方、原発性多汗症は、特別な持病などの原因がないにもかかわらず発症する多汗症を指します。実際の多汗症患者さんの多くはこのタイプです。
②発症部位による分類:「全身性多汗症」と「局所性多汗症」
「多汗症」は、決して手のひらだけの症状ではなく、足の裏や脇の下、顔や頭、時には全身に症状が見られる場合もあります。
全身性多汗症は、体全体の汗が増加する多汗症です。さらにその中にも原因が不明な原発性のものと、感染症や内分泌代謝異常、神経疾患などの病気によって発症する続発性のものがあります。
一方、局所性多汗症は、手のひら、足の裏、脇の下、顔、頭などの特定の部位にのみ、多汗症状が見られる多汗症。手掌多汗症も局所性多汗症の一つです。
手のひらの多汗に悩んでいる患者さんの多くは、同時に足の裏の汗にも悩んでいるケースが多く、手のひらと足裏両方の多汗は「掌蹠多汗症(しょうせきたかんしょう)」という病名でも表されます。
また、手掌多汗症の患者さんの中には脇の下の多汗「腋窩多汗症(えきかたかんしょう)」を併発する人もいます。このように多汗症は、汗の出る部位や発汗量が患者さん一人一人によって異なるのが特徴です。
全身性と同じく、こちらも原因が不明な原発性のものと、ケガや腫瘍などの神経障害疾患によって発症するものがあります。
発症頻度は、局所性多汗症が患者全体の9割を占めています。全身性多汗症の割合は残りの1割と少ないですが、局所性に比べ、より家族性(遺伝)の影響が高いのではないかと考えられています。
(参考)同友会グループ 汗っかきに潜む怖い病気
※こちらの医療機関のページには、多汗症の分類や症状、治療法などについて分かりやすく説明されています。
3.手掌多汗症の検査と診断
まずは皮膚科を受診。「発汗異常外来」という専門外来も
汗の量や状態に気になる症状がある時、まずは皮膚科を受診しましょう。
また、数は多くありませんが、大学病院などの大きな病院では、「発汗異常外来」という専門外来を設けているところもあります。ご自宅の近くにある場合は受診してみても良いでしょう。(※紹介状などが必要になることもありますので事前に確認が必要です)
手掌多汗症の診断基準は?
多汗症のガイドラインによると、手掌多汗症の診断基準は、「明らかな原因がないにもかかわらず、
【多汗症の診断基準】
- 発症が25歳以下である
- 左右対称性の発汗である
- 睡眠中は発汗が止まる
- 1週間に1回以上、多汗のエピソード(できごと、話)がある
- 家族に同じ症状の人がいる
- 発汗症状により日常生活に支障が出ている
手掌多汗症の重症度の判定は?
多汗症と診断されても、発汗量やその状態は患者さんによってそれぞれ違い、治療法が変わってくることもあります。
重症度の判定には、患者さんの自覚症状の程度を4つに分けた以下の分類「HDSS (Hyperhidrosis disease severity scale)」が用いられます。この分類の中の3と4に当てはまる場合が重症の目安となっています。
【多汗症の重症度判定:HDSS】
- 発汗は全く気にならず、日常生活に全く支障がない
- 発汗は我慢できるが、日常生活に時々支障がある
- 発汗はほとんど我慢できず、日常生活に頻繁に支障がある
- 発汗は我慢できず、日常生活に常に支障がある
また、医療機関では、治療に取り組む時の分かりやすい目安として、以下のような3段階のレベル分けを行うこともあります。
こちらの指標は、より症状が具体的であるため、患者さんにとっても分かりやすく、ご自身の症状の程度や治療計画を考える上でも役立ちます。
- レベル1:湿っている程度。見た目には分かりにくいが、触ると汗ばんでいる。水滴ができるほどではないが、汗がキラキラと光っている。
- レベル2:水滴ができているのが見た目にもはっきりと分かる。濡れているが、汗が流れるところまではいかない。
- レベル3:水滴ができて、汗がしたたり落ちる。
(参考)公益社団法人日本皮膚科学会 原発性局所多汗症診療ガイドライン2015版
多汗症の検査にはどんなものがある?
多汗症の確定診断をするために、発汗の状態を調べる「発汗検査」
発汗量を調べる検査はいくつかありますが、なかでも一番簡単でメジャーな方法は「ヨード紙法」と言われる検査です。
ヨードを染み込ませた検査用紙に手のひらを押しあてると、発汗しているところの紙が黒く染まります。
軽症であれば、指や手のひらのまわりなどが黒くなる程度ですが、中等度は手のひら全体の汗腺に沿って点々と黒く染まります。重症になると全体がべったりと黒く染まります。
このように発汗部位が一目瞭然なので見た目的にも分かりやすい検査です。
このほか、ろ紙を付着したビニール手袋を5分間装着し、汗を吸ったろ紙の重量を調べる「重量計測法」もありますが、こちらはおもに治療開始した後に治療効果を判定するために用いられる検査です。
(参考)公益社団法人日本皮膚科学会 原発性局所多汗症診療ガイドライン2015版
4.手掌多汗症のおもな治療法は?
検査の結果、手掌多汗症と診断されると、治療が始まります。
手掌多汗症のおもな治療には以下の4種類があります。
①外用薬(塩化アルミニウム)
塩化アルミニウムの水溶液またはアルコール溶液を毎日寝る前に、手のひらに塗ることで発汗を減らす方法です。
効果が得られるまでには2~3週間かかりますが、汗が止まってきたら週2~3回に減らします。
中等度~重症の場合、溶液を塗った手をラップやプラスチック手袋で密閉する「閉鎖密閉療法(ODT療法)」でより効果を高めることもあります。
使用法が簡単なことから、ガイドラインの中では「すべての多汗症に対して行う第一選択治療」とされていますが、効果には個人差があり、副作用として皮膚炎を起こすこともあります。
現在、塩化アルミニウム溶液は保険適用の外用薬がなく、病院内で調合されたお薬(院内製剤)が使われているため、外用薬の普及が待たれているところです。
【体験談4】塩化アルミニウムローションを塗るだけで発汗量が減少!
東京医科歯科大学の皮膚科へ行き、今までの経緯を説明すると、保険外の「50% 塩化アルミニウムローション(エタノール無し)」という手のひらに塗るローションを紹介していただき、病院の近所の薬局で購入し使用しました。汗は完全に止まりませんでしたが、子供曰く「薬を塗ると前より汗が気にならなくなった」との事なので既に5年以上この薬を使っています。
この患者さんの場合、塩化アルミニウムローションのおかげで、完全とはいかないものの、発汗量を減らすことができました。
② イオントフォレーシス
手のひらを水道水の入った容器の中に浸し、10~20mAの直流電流を流す方法です。電気を通すことで生じる水素イオンが発汗を邪魔して汗を抑えると考えられており、塩化アルミニウム溶剤と並び、イオントフォレーシスも第一選択の治療法とされています。
1回30分の治療を8~12回程度行うと徐々に汗の量が減ってき
治療には保険が適用されますが、何度も通院ができないという方には「ドライオニック」という家庭で使用できる機器をインターネットで購入することもできます。
③ボツリヌス毒素局所注射
ボツリヌス菌が作り出すボツリヌス菌毒素の中でもA型と言われる「ボツリヌス毒素BT-A」を手のひらに注射する方法です。
BT-Aには交感神経から発汗の指令を出すアセチルコリン*1を抑制する作用があります。
*1 アセチルコリンとは、副交感神経や運動神経の末端から放出される神経伝達物質で、神経刺激を伝える役割があります。
手のひらに約2㎝間隔で局所注射を行っていきます。1回の治療で約6ヶ月間、発汗を抑制する効果が持続します。
注射時に痛みがあることや、お箸や鉛筆が持てないといった副作用が起こることがありますが、通常は徐々に症状が治まります。
なお、ボツリヌス注射は、2012年の4月から重症の腋窩多汗症(脇の下)については保険が適用されるようになりましたが、手や足の多汗症には、保険適用が認められていません。そのため、1回の治療費が数万程度と高額で、治療を継続するのが難しいのがデメリットです。
【体験談5】注射の効果は絶大。嘘のように汗がおさまった!
病院ではすぐに多汗症で間違いないと診断を受けました。
注射による治療ができると聞いたので、すぐに注射での治療を受けました。注射は痛かったのですが、今までの多汗症での苦しみと比べると全く辛くありませんでした。その後、数ヶ月間ずっと治療をしたのですが、汗が嘘のように収まりました。
今回、記事の中でご紹介している患者さんの体験談にも多かったのが、注射による治療でした。即効性があり、効果も長いことが、その理由だと考えられます。注射時の痛みにしても、上記の方の場合、「多汗症の悩みに比べれば辛くなかった」とおっしゃっています。(※あくまでも患者さん個人の感想です)
(画像引用)公益社団法人 日本皮膚科学会 汗の病気―多汗症と無汗症
※手のひらの30カ所(しるしの付いているところ)へBT-A局所注射を行います。
④外科手術(胸腔鏡下交感神経遮断術:ETS)
脇の下の皮膚を小さく切開し、内視鏡を使って胸にある発汗をつかさどる交感神経を切断もしくはクリップで留めるというもので、手術は全身麻酔下で行います。
重症で、これまでご紹介した治療法では効果が見られない時の最終的な治療法として行われます。
手術は20分程度と短時間で、術後すぐに汗が止まるため、効果がすぐに感じられるのがメリット。手掌多汗症の場合、その有効率はほぼ100%と言われており、健康保険も適用することができます。
ただし、術後の副作用として理解しておかなければならないのは、「代償性発汗(だいしょうせいはっかん)」がかなり高い確率で起こるということ。
代償性発汗とは、手術後、手のひらの汗が減った代わりに、胸や背中、お尻などの汗が増える症状ですが、代償性発汗の程度は個人差が多く、事前に予測することができません。
最近では交感神経の切除部分を少なくすることで、その発症頻度も減ってきていますが、代償性発汗が起こるかどうかはあくまでも手術をしてみないと分からないため、手術のメリットデメリットを良く理解して納得してから手術を受けることが重要です。
(図)手掌多汗症のおもな治療法 Calooマガジン編集部 ※図をクリックすると拡大します。
(参考)公益社団法人日本皮膚科学会 原発性局所多汗症診療ガイドライン2015版
5.適切な治療で手掌多汗症は改善できる!一人で悩まず、専門医に相談を。
日本国内の手掌多汗症の患者さんの多くは、手のひらの汗に悩まされながらも、いまだ治療を受けていないのが現状です。
手掌多汗症は、我慢できない痛みがあるわけでもなく、命に関わるような病気ではありません。
けれど、自分ではコントロールできない手のひらの汗のことが片時も頭から離れず、常に不安を抱えながら生活をしなければならないというのはとてもつらいものです。
思春期のお子さんなどは恥ずかしいという気持ちもあり、医療機関に行くことをためらってしまうかもしれません。しかし、専門医の先生は、毎日の診察の中で、同じような患者さんを数多く診てきているので何も心配することはありません。
参考までに以下、治療を受けた方の感想の一部をご紹介します。
- 「今までできなかったお洒落を楽しんだり、本当に人生が変わったと思います。ケネス(30歳代・女性)」
- 「今では汗の量が平均並になりましたし、人と手を繋ぐ時でも堂々と出来るので本当に良いです。病院に行って本当に良かったと思いました。あきな子(30歳代・女性)」
- 「1ヶ月程治療に通った所、驚くくらいに汗が止まったので本当に良かったです。こんなに早く改善するのなら、もっと早くから治療をしておけば良かったと心から思います。さとざきです(30歳代・女性)」
今回、ご紹介した体験談の患者さんに限って言えば、その全員が「治療を受けて良かった」と感じており、同じように多汗症で悩んでいる方にも治療を受けることをすすめています。
適切な治療を受けて多汗の悩みから解放されれば、精神的にも気持ちがぐんと軽くなります。
これまで手の汗が気になってできなかったことにも積極的にチャレンジできるようになり、患者さんの生活の質は格段にアップすることでしょう。
長い間悩んできたつらい症状を改善するためにも、ぜひ勇気を出して医師に相談してみることをおすすめします。
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