股関節疾患の中で最も患者数が多い「変形性股関節症」
人間の体には全部で68個もの関節があり、固い骨同士をつなぐ役割をしています。
人は膝や指、肩、肘などの関節をスムーズを動かすことで、歩く、立つ、座る、物をつかむなどの基本的な日常生活動作をとることを可能にしています。
その中でも足の付け根(鼠蹊部:そけいぶ)にある「股関節」は、骨盤と大腿骨をつなぐ大きな関節で、体幹(胴体)と下肢(足)を支え、歩行などの重要な動きを司っています。
この股関節が少しずつ不具合を起こして変性し、壊れていく疾患が「変形性股関節症」です。
変形性股関節症は、様々な股関節の疾患のなかでも最も患者数が多いもので、さらにその数は近年増加傾向にあります。
(参考)関節が痛い.com
※こちらのサイトは関節の痛みや人工関節について詳しい説明を見ることが出来ます。
股関節の軟骨がすり減ることが原因。老化の他にも先天性の場合も。
変形性股関節症は股関節の軟骨がすり減ることが原因でおこります。
症状が進行して軟骨が減ってくると、今度は骨そのものの破壊が進み、さらにそれを修復しようとする作用が過剰に働くことで骨が変形してきます。
その結果、痛みや腫れなどの関節の不具合が起こるようになり、歩行などの日常動作が辛くなります。
股関節のしくみと痛みの出るメカニズム
(引用)NPO法人のぞみ会 変形性股関節症の会
※こちらのサイトには変形性股関節症の患者さんを支援するための様々な情報が掲載されています。
股関節は、大腿骨の先端の骨頭(こっとう)という部分が、骨盤の一部である寛骨臼(かんこつきゅう)にある臼蓋(きゅうがい)という受け皿のような部分にすっぽりとおさまる構造になっており、そのおかげで上下左右自由自在に動かせるようなしくみになっています。
どちらも固い骨である臼蓋と骨頭の間には、通常、直接ぶつかり合わないようにクッションの役割をしている、厚さ2~3mmほどのツルツルとした軟骨があり、その周囲は関節包(かんせつほう)という袋で包まれ、内部は関節液(かんせつえき)という液体で満たされています。
関節包の内側にある滑膜(かつまく)から分泌される関節液は、関節をスムーズに動かすための潤滑油の働きをしたり、軟骨に栄養を補給する重要な役割を持っています。
股関節の軟骨自体は80%ほどが水分からできていて、血管や神経などは通っていないため、少しすり減っただけでは痛みを感じることはありません。
しかし、軟骨がだんだん少なくなって、臼蓋と大腿骨頭の間のすき間が狭くなると、次第に直接骨同士が接するようになるため、痛みを感じるようになります。
そうなると、接している骨の部分に骨のう胞(こつのうほう)という穴が開いたり、反対にそれを修復しようという作用が過剰に働き、骨棘(こっきょく)という突起(骨)が出来ます。
骨棘はトゲのようなギザギザな形態のため、本来丸いはずの骨頭がいびつな形になっていき、関節そのものが変形し、さらに痛みを感じるようになります。
「一次性」と「二次性」。変形性股関節症の2つの分類。
変形性股関節症は、はっきりとした原因が分からずに発症する場合と、特定の病気や外傷がきっかけになる場合の2つのパターンがあります。
はっきりとしたきっかけはなく、加齢による関節の老化や肥満、股関節に負担のかかるスポーツや職業を行っている、などの素因が長年積み重なり、年齢が上がるとともにじわじわと発症するケースは「一次性」と呼ばれています。
それに対し、もともとの原因となる特定の病気やケガによって、発症するケースは「二次性」と呼ばれています。
欧米人は一次性の発症が多いのに対し、骨格に差のある日本人は二次性による発症が多く、ガイドラインでは少なくとも日本国内には100万人以上もの変形性股関節症の患者さんがいると表記されています。
(参考)股関節の痛みの原因を治療する~セラピスト國津秀治のブログ~
※こちらは股関節のリハビリの経験が豊富な理学療法士の方のサイトで股関節の痛みについて詳しく解説されています。
女性の発症は男性の2倍に。女性は構造的にも発症しやすい!
その有病率は男性に比べると特に女性の発症が2倍ほど高く、中高年になるほどその確率は上がっていきます。
変形性股関節症の原疾患(元となる病気※)は先天性股関節脱臼(せんてんせいこかんせつだっきゅう)、臼蓋形成不全(きゅうがいけいせいふぜん)、ペルテス病、股関節唇損傷、FAI(股関節インピンジメント)、大腿骨頭すべり症などがあげられます。
その中でもその9割は先天性股関節脱臼、臼蓋形成不全が占めており、これらが特に女性に多い疾患であることが発症率を高めている大きな理由です。
それ以外にも、女性の骨盤は出産を行うため男性よりも横に広い構造になっており、体の重心までの距離が遠く、より股関節への負担が大きいことや、男性に比べると筋力が弱い女性は関節まわりのゆるみがあるため、股関節を支えにくくなっていることなども発症が多くなる原因と考えられています。
(引用)股関節の痛みの原因を治療する~セラピスト國津秀治のブログ~
(※補足)変形性股関節症のそれぞれの原疾患についての説明
・先天性股関節脱臼(遺伝や胎内での姿勢の異常で生まれつき股関節が脱臼している状態。近年は減少傾向にある。)
・臼蓋形成不全(臼蓋が不完全な形で成長しまうことで、大腿骨の骨頭がきちんとおさまらず、浅くなってしまっている状態のこと。先天性の場合と成長時の発育過程で起こる後天的な場合がある。)
・ペルテス病(4~8歳くらいの成長期に発症することが多い大腿骨頭の疾患。大腿骨頭の血流が途絶え、骨頭が壊死するケースもある。)
・股関節唇損傷(寛骨臼の周りを取り巻いている軟骨である股関節唇(こかんせつしん)が損傷して痛みが生じ、骨頭が不安定になる疾患。変形性股関節の発症につながる)
・FAI(股関節インピンジメント:femoroacetabular impingentと言われる、寛骨臼と大腿骨の形の異常が原因で痛みが生じ、軟骨や関節唇が損傷すること。インピンジメントとは挟み込みという意味。寛骨臼、大腿骨のどちらかに異常がある場合の他、その両方に原因があるケースも見られる。)
・大腿骨頭すべり症(10~14歳の成長期に多い疾患で、骨頭の先端の丸い部分にずれが起こり、痛みや跛行を引き起こす疾患。)
変形性股関節症の代表的な3つの症状「痛み」「動きの悪さ」「跛行(はこう)」
①「痛み」~進行度によって変わっていく。
変形性関節症の主な症状の1つが股関節の痛みです。
初めは歩いたり運動した後に感じる股関節や膝、もも、お尻の鈍痛から始まることが多く、しばらく休むと痛みはおさまりまりますが、徐々に症状が進んでいくと、歩き始めるときや立ち上がる時などに「動き初めの痛み(始動痛)」が起こるようになり、痛む場所も股関節に限定されてきます。
さらに症状が悪化していくと安静にしていても痛みはなくならず常習的な痛みになり、寝ている時の夜間痛で睡眠に影響が出るケースもあります。
②「動きの悪さ」~動かさないとさらに可動域が狭くなる。
痛みが強くなることで動かすことが辛くなり、和式トイレの使用や階段の昇り降り、靴下を履くといったような特定な動きが出来なくなります。
また、痛みがあるからと言って安静を続けているとさらに筋肉は固くなり、関節の可動域(動く範囲)は狭くなります。
このような状態は関節拘縮(かんせつこうしゅく)と言い、曲げる、開くといった動きが取れなくなる他、関節拘縮が進むと骨盤が傾いてきて左右で足の長さが違うように感じるようになる事(脚長差)もあります。
③「跛行」~肩を前傾し、足を引きずるような歩行異常。
また、脚長差や痛みがあると、運動不足から筋力不足になったり、痛い方の足をかばって歩くようになり、身体全体のバランスが崩れていきます。
そうなると、次第に肩を前に出し、足を引きずるように歩く「跛行(はこう)」になる事も多く、変形性股関節症の特徴的な症状の1つです。
(参考)アゼカミ治療室
※こちらのサイトでは変形性股関節症の症状や特徴について分かりやすく説明されています。
【体験談】時々起きる腰や骨盤の痛み。症状が進行し、受診したところ変形性股関節症と判明。
祖母が変形性股関節症なのですが、最初は骨盤から腰が痛くなり、正座から立ち上がる時に痛みが走ったり、長時間同じ態勢でいた後などに痛むようになっていました。
当初は頻繁ではなく、月に1回程度だったのですが、その回数が増えてきたため、かかりつけの病院で相談したところ、レントゲンを撮り、診察をしてもらい、変形性股関節症だと判明しました。家では、なるべく椅子に座ったり、長時間同じ姿勢で作業するなどしないように気を付けていますが、高齢者の方には多い病気のようで、関節の軟骨がすり減ったり、骨の変形で神経を刺激し痛みが出てくるそうです。
祖母の場合、軟骨がすり減り、骨が神経を刺激して痛みが生じているようです。
【体験談】先天性の股関節脱臼。2人目出産時の股関節への負担で悪化し、痛みや歩行が辛く。
私は生まれつき、両足の股関節脱臼です。
生後3カ月くらいで病気が発覚して、
大学病院で、治療を受けていましたが、それは小学校に上がる前までで、
小学校以降は1年に一度、定期検診に通っていただけでした。中学校以降はそれも行かなくなり、
股関節の痛みや、脚の長さの違いに不便を感じながらも、普通に生活していました。病気が悪化したのは、二人目の子供を出産した時です。
私は31才になっていました。普通分娩でしたが、一人目も普通分娩で問題なかったので、特に心配はしてなかったのですが、二人目の赤ちゃんは4,000gととても大きく、もともと悪かった関節には負担が大きかったみたいです。
出産後、初めて立って歩いた時に、膝が抜ける様な感覚があり、それからまともに歩けなくなってしまいました。
股関節の痛みが続く、動きの悪さが気になる場合は一度検査を!
変形性股関節症は、徐々に進行していく進行性の疾患です。
放置していても良くなることはないので、股関節に痛みや違和感がある時は、早めに医療機関を受診することが大切です。
まだそれほど強い痛みではなくても、進行具合によっては時期を見て手術が必要になるケースもあり、定期的に専門医の経過観察を受けることが大切です。
病院での診察と検査方法。
検査は整形外科で受けることが出来ますが、股関節の専門外来を持つ病院もあるので調べて受診するのも良いでしょう。
整形外科を受診すると、痛みの持続時間や、痛みの種類、いつから症状が現れたかなど医師による問診の他、レントゲン検査が行われます。
レントゲン検査では柔らかい股関節の軟骨は写りませんが、レントゲン写真で臼蓋と大腿骨頭の間の幅が十分に見られれば軟骨もまだ十分あると診断することができ、臼蓋や骨頭の形やずれなど、骨そのものの異常も確認することができます。
その他、股関節の痛み、腫れや熱感などがある時や変形性股関節症と似た症状の「関節リウマチ」など他の疾患が疑われる場合は、より詳しい検査が必要なため、患者さんの状態に合わせて血液検査や関節液検査(股関節にたまった関節液を抜いて成分を調べる)、MRIやCTなどを行う場合もあります。
適切な治療、経過観察が予後を左右する!
変形性股関節症は一度、発症すると、残念ながら治療をしても元通りになることはありません。
しかし、薬物療法で痛みを抑えたり、理学療法士による運動療法や生活指導など適切な治療を受けることで、不快な症状を和らげたり、症状の進行を緩やかにすることは可能です。
症状が進行してしまってからだと、行える治療にも影響し、その改善効果も少なくなりますので、早めの受診と専門医による適切な治療や経過観察を受けることがとても重要です。
股関節の気になる症状は見逃さずに早期に受診するようにしましょう!