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2017年9月8日更新

フルミストはインフルエンザ予防に効果がある?2017-2018年 日本・外国の取扱動向

インフルエンザ感染口となる鼻にスプレーして、直接免疫を作るので、約1年間効果が続く「フルミスト」。フルミストの2017-2018年日本・アメリカ・イギリス取り扱い動向、開発中の新しいワクチン(皮内投与型・経鼻不活化ワクチン)についてご紹介します。
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”痛くないインフルエンザワクチン”として、一部の医療機関で個人輸入され、取り扱われている経鼻スプレー式インフルエンザ生ワクチン「フルミスト」。
昨年2016年、その有効性について”アメリカでは効果がない”という発表があり、日本でも急きょ取り扱いをやめる医療機関が現れました。

Calooマガジン編集部では、改めて「フルミスト」の効果・特徴と共に、2017-2018年シーズンの「フルミスト」に対するアメリカやヨーロッパの動向、日本の医療機関の取扱方針についてまとめました。
さらに、開発中の新しいインフルエンザワクチン情報についてもご紹介します。

1.痛くない!経鼻スプレー式インフルエンザ生ワクチン「フルミスト」の作用・効果

インフルエンザ感染口となる鼻にスプレーして、直接免疫を作る「フルミスト」

「フルミスト」とは、経鼻スプレー式のインフルエンザ生ワクチン(LAIV:Live Attenuated Influenza Vaccine)のアメリカでの商品名のこと。

「フルミスト」の作用は、インフルエンザ感染の場となる上気道(鼻やのど)の粘膜に、弱毒性インフルエンザ生ワクチンを噴霧することで、直接免疫を作ってインフルエンザ感染を予防します。

生ワクチンなので、数%の割合で接種後1週間程度、風邪のような症状(熱・鼻水・咳など)が出る可能性があります。ただし、フルミスト接種によるインフルエンザ感染の例は、今のところありません。

ちなみに、この経鼻スプレー式生ワクチン(LAIV)は、イギリスでは「フルエンズ」という名前で商品化されています。(※この記事の中では、経鼻スプレー式生ワクチン(LAIV)について、「フルミスト」という呼び方に統一しています。)

不活化ワクチン注射と「フルミスト」は、抗体有効期間と予防の目的に大きな違い!

従来のインフルエンザ予防接種で使われている「不活化ワクチン」と経鼻スプレー式インフルエンザ生ワクチン「フルミスト」の違いを表にまとめました。

生ワクチン(フルミスト) 不活化ワクチン(注射)
投与方法 鼻の中に噴霧する 皮下注射
ワクチン内のウイルスの状態 病原性が弱いが、生きているウイルス 病原性のないワクチン
期待できる効果 感染自体を防ぐ 感染しても重症化させない
メリット
  • 針を刺す痛みが無い
  • 抗体有効期間が長い
  • 流行の型と異なっていても軽症化させる
  • 高齢者や妊婦、医療従事者も接種可能
  • 国内認可されている(医薬品副作用被害者救済制度の対象となる)
デメリット
  • 国内未認可なので、基本的に自己責任接種。(製薬メーカー独自の補償はあり)
  • 生ワクチンなので、接種禁忌なケースがある
    妊婦や妊娠の可能性のある人
    1年以内に喘息発作を起こした2~4歳児
    ③免疫不全患者に接する機会のある医療従事者
    ④アスピリン内服中の人
    ⑤4週間以内に生ワクチン接種した人 など
  • 注射だから、痛みを伴う
  • 子供の場合、2回接種が必要
  • 接種しても、感染を防ぐことはできない
  • 流行の型と外れると、効果は落ちる
ワクチンの有効期間 約1年間 約4~5か月
接種対象 2~49才 生後6ヵ月以上
接種後、鼻・喉からインフルエンザウイルスが検出されるか? 接種から1週間くらい検出される 検出されない

(参考)横浜市衛生研究所「インフルエンザの生ワクチンについて」
こちらのページでは、これまでのインフルエンザワクチンの型について、詳細に説明がされています。

2.フルミストは効果ある?ない?2017-2018年アメリカ・ヨーロッパの動向

昨年2016年に引き続き、「フルミスト」の有効性と利用方針について、アメリカは「有効性への懸念から非推奨」の立場を取っています。一方、ヨーロッパ(イギリスやフィンランド)は「有効性が認められているので、推奨」という対極の立場を取っています。

アメリカはフルミスト有効性を撤回!2017-2018年も「推奨せず」

1996年頃の開発当初、インフルエンザへの有効率は約90%でした。
その後も不活化ワクチンと同様の有効性を持つとされていましたが、昨年2016年アメリカCDC(米国疾病予防管理センター*1)の調査したところによると、「2012年から3年間の有効率は、不活化ワクチン(注射)の60%に対し、フルミストは数%だった」ことが判明しました。
また、特にH1N1型には、ほぼ「無効」だったとの報告がなされています。

その調査結果を受け、CDCは「2016-2017シーズンはフルミストを推奨せず、不活化ワクチン(注射型ワクチン)を推奨する」と発表しました。

*1CDC(米国疾病予防管理センター):日本の「国立感染症研究所」のような組織。世界の様々な病気や医療に関する情報を調査・発信している組織です。発表される文書やガイドラインは、グローバルスタンダード(世界基準)にとして、高い影響力を持っています。

そして2017年6月、アメリカCDCの予防接種諮問委員会(ACIP)は、2017-2018シーズンのフルミストについても「2013ー14年および2015ー16年の季節における(H1N1)pdm09ウイルスに対する有効性の懸念から、2017-18シーズンの使用は推奨しない」と、再び”非推奨”を発表しました。

この発表を受け、アメリカの小児科学会(AAP)では、フルミスト接種を見合わせ、不活化ワクチンでの接種を行うよう学会員に呼びかけています。

(参考)CDC:Prevention and Control of Seasonal Influenza with Vaccines
こちらのページでは、アメリカの予防接種諮問委員会(ACIP)による2017-2018シーズンインフルエンザの予防と管理のためのワクチン使用に関する推奨事項について、発表されています。(英文)

イギリスはフルミストの有効性を認め、2017-2018年も「推奨」

2017年8月末、イングランド公衆衛生庁(PHE)は、「イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドで、フルミスト接種が2016-2017年シーズンに子どものインフルエンザ感染リスクを65.8%低下させた」と発表しました。

また、成人(18才~64才)に対する不活化ワクチンの有効率は40.6%で、65才以上の高齢者には有意に効果的であると確認できなかった、としました。

イギリス当局は、この結果を踏まえ、インフルエンザのワクチンプログラムをより若年層に拡大していく必要があるとしています。2017-2018年のシーズンにおいて、子どもは4才(レセプションクラス:就学前クラス)~4年生まで学校でワクチンプログラムを受けるよう拡大することで、高齢者や重度疾患リスクがある人達が保護できると考えています。

カナダでもイギリスと同様の効果があったとして、昨年に引き続き、2017年-2018年も利用することを発表しています。

(参考)Public Health England:Nasal spray effective at protecting vaccinated children from flu
こちらのページでは、イングランド公衆衛生庁(PHE)による、イングランドでの昨年度(2016年~2017年)季節性インフルエンザについて、子どもに対する経鼻スプレー式生ワクチン(フルミスト)の有効性に関する発表が掲載されています。(英文)
(参考)Public Health England:Influenza vaccine effectiveness (VE) in adults and children in primary care in the United Kingdom (UK): provisional end-of- season results 2016-17
こちらのページでは、昨年度のイングランド国内でのインフルエンザワクチンの有効性に関する結果データが公開されています。(英文)
(参考)Canadian Immunization Guide Chapter on Influenza and Statement on Seasonal Influenza Vaccine for 2017–2018
こちらのページは、カナダの2017-2018年インフルエンザ予防接種ガイドです。年齢別に推奨されているワクチンについて記載されています。(英文)

3.日本では、フルミスト取り扱いを止める病院、続ける病院も様々

日本における2017-2018年の「フルミスト」取扱動向ですが、引き続きのCDC”非推奨”宣言を受け、新たにフルミストを取り扱う病院は少ないようです。
これまでフルミストを取り扱ったことがある病院が、今シーズンのフルミストの輸入を止め、不活化ワクチンのみの取り扱いをするか、例年通りフルミストを取り扱うかに分かれています。

Calooマガジン編集部では、2017年-2018年版フルミスト取り扱いについて、医療機関の代表的な理由をまとめました。

<2017-2018年フルミストの取り扱いを中止した理由>

  • 2016年に引き続き、「CDCが2017-2018年も推奨しない」とする見解を出した。
  • 海外からの入荷が滞り、接種時期が遅くなることで、インフルエンザの流行までに予防接種の効果が表れないリスクがある。
  • 国内未承認
  • 日本でも新たなワクチンを開発中なので、今無理に取り扱わなくても良い。

2017-2018年版フルミスト取り扱いを中止した病院の多くは、「アメリカCDCが2017年もフルミストを推奨しない点」を重要視しており、その発表に準拠する形を取っています。

<2017-2018年フルミストの取り扱いを継続する理由>

  • 患者さんの要望と昨年度の自院の予防有効率の高さ
  • アメリカ以外の先進国(イギリスなど)では、フルミスト有効が確認されている点。むしろ、接種対象が拡大されている。
  • 2016年版フルミストの有効性が悪かった理由に「温度管理が悪かった説」があるが、自院では適切な温度で生ワクチンを管理保存している点。
  • 針を刺す痛みが無いというメリット

一方、引き続きフルミストを取り扱う病院は、自院の昨年度の予防接種データから有効性を判断したことや引き続き希望する患者の意向を汲んだこと、フルミストのメリット(痛みが無い)を重視したことを挙げています。

このように、フルミストの有効性は、日本国内の医師によっても見解が分かれています。
フルミスト接種を検討されている方は、かかりつけ医または接種予定の医療機関に未認可ワクチンについての考え方をよく確認してから接種しましょう。

全国の鼻にスプレーするインフルエンザ予防接種(2017-2018年フルミスト)を取り扱っている病院を「病院口コミ検索Caloo」で探す

(参考)鈴の木こどもクリニック:フルミストとは
こちらのページでは、フルミストの効果・副反応・2017-2018年の取り扱い方針について、説明されています。
(参考)生馬医院:2016-2017シーズンのフルミストについて
こちらのページでは、アメリカだけが効果が落ちた理由や自院での接種効果調査など、詳しく考察されています。

アメリカで「フルミスト」の有効性が落ちたとする理由が、どれも仮説のままの謎

実は、突如アメリカだけでフルミストの有効性が落ちたことへの理由について、未だ解明されていないのです。
考えられている仮説は諸説あり……

  1. 温度管理のずさんさ
    アメリカで生ワクチンを取り扱うクリニックの約70%が、不適切な温度での保存をしていたとの報道も。
  2. 多種類混合生ワクチン
    有効性の評価に使われた2013-2014年フルミストは、含まれるウイルスの型が3価→4価に変更。そのため、それぞれのウイルス株が干渉して、効果が発揮されなくなった説。
  3. インフルエンザ流行時期が早かったこと
    アメリカCDCによると、特にH1N1型インフルエンザに効果が認められなかったとの報告。
    これは、フルミスト発売よりも先にH1N1インフルエンザに自然感染していた人が多かったため、生ワクチンのウイルスを接種してもワクチンのウイルスが効果を発揮できなかったのではないか、という説。
    また、経鼻スプレー式なので、患者が鼻詰まりや鼻炎を起こしていると、きちんと作用されないことも考えられます。

販売元のメーカー(アストラゼネカ)も反論していますが、未だにCDCによる正式な見解は発表されておらず、どれも仮説の域を脱していません。
販売元メーカーは、今後も他国へ輸出を続け、データを得ることで有効性への理解を深める意向を示しています。

3.開発中の新しいインフルエンザワクチン①皮内投与型ワクチン②経鼻不活化ワクチン

日本でのインフルエンザ予防接種は、不活化ワクチン注射または経鼻スプレー式生ワクチン「フルミスト」が選択可能となっています。(※ただし、2017年9月現在、フルミストは日本未認可。現在は承認申請中。)

そんな中、他にも新しいインフルエンザワクチンの開発が進められています。

①貼るだけでOK!?免疫細胞の多い部位に「皮内投与型ワクチン」

これまで日本のインフルエンザ予防接種は、真皮の下にある皮下組織への注射(皮下注射)となっていました。
しかし、表皮と皮下組織の間(=真皮)には、実は免疫細胞がたくさんあるのです。

そこで、この真皮の部分に直接不活化ワクチンを投与することで、より高いワクチン効果が期待できるのです。

また、皮下組織より浅い部分に注射することで、細く短い針を用いることができます。
これまでの皮下注射よりも、針を刺す痛みや精神的ストレスを軽減することも期待できます。

日本では、第一三共・テルモを含む4社の共同開発で行われており、2015年4月に承認申請が行われています。
ノック式のボールペンのような皮内投与型デバイス*2を使った投与が想定されています。このデバイス(専用注射器)には、皮下組織の末梢血管や神経へのリスクを減らせるような工夫がなされています。

*2 皮内投与型デバイス:専用の注射針とプレフィルドシリンジ(薬剤充填済み注射器)を組み合わせた専用注射器

さらに、アメリカでも皮内投与ワクチンの開発が進んでいます。
2017年6月、米ジョージア工科大学の研究チームが、インフルエンザワクチンパッチ(絆創膏)の安全性と有効性を確認したという予備研究成果を『The Lancet』6月27日オンライン版に発表しました。

絆創膏サイズのパッチには、極めて小さい針(マイクロニードル)が100本付いていて、皮膚に貼り付けると20分ほどでワクチンが浸透していくという画期的なもの。ちなみに、針は皮膚内で溶解するので安全とのこと。
重篤な副作用もなく、赤みなどの局所的な反応も2~3日でなくなったとしています。

医療従事者でなくても自分でワクチン投与が可能になる将来も、そう遠くないのかもしれません。

(参考)第一三共株式会社:皮内投与型インフルエンザワクチン国内製造販売承認申請のお知らせ
こちらのページでは、皮内投与型インフルエンザワクチンの詳細および皮内投与イメージ図が公開されています。
(参考)『The Lancet』6月27日オンライン版:The safety, immunogenicity, and acceptability of inactivated influenza vaccine delivered by microneedle patch (TIV-MNP 2015): a randomised, partly blinded, placebo-controlled, phase 1 trial
こちらのページでは、米ジョージア工科大学の研究チームによる「インフルエンザワクチンパッチ(絆創膏)の安全性と有効性」についての研究の概要が公開されています。(英文。全文読むには有料会員登録が必要)

②感染口となる鼻・のどに「経鼻不活化ワクチン」

日本では、もう一つインフルエンザのワクチンの開発が進んでいます。
それが、国立感染症研究所 長谷川秀樹氏をはじめとした研究チームが開発中の「経鼻不活化ワクチン」です。

前述した通り、皮下注射による不活化ワクチンの欠点には、①すぐに抗体が効かない②予測して作っておいたワクチン型と実際に流行した型が異なると、効果が弱まるという点がありました。

「フルミスト」のような”経鼻スプレー方式”を採用することで、インフルエンザ感染口となる鼻やのどの粘膜に、免疫を直接活性化させることができるので、色んな型に対応しやすく、感染自体しにくくなります。

また、不活化ワクチンにすることで、使用対象の制限やワクチンの温度管理などの問題がなくなり、取り扱いやすくなることも期待されます。

現在、マウスでの実験を経て、ヒトで評価が始まりました。
5年後くらいの承認を目指し、さらなる研究が進められているところです。

今後の開発に、期待しましょう!

(参考)国立感染症研究所 長谷川秀樹:新興再興感染症に対する経鼻ワクチンの開発・実用化に関する研究
こちらのページでは、「経鼻不活化ワクチン」開発のための臨床研究について、報告されています。

4.フルミストに興味がある場合は病院・クリニックに相談を!

これまで2017-2018年版「フルミスト」の各国の取り扱い動向を見てきました。

撤回のアメリカ、推奨のイギリス・フィンランド・カナダ、自己判断の日本。

前述した通り、フルミストのような経鼻スプレー式は、感染源である鼻・のどの粘膜に直接免疫を誘導できるので、感染自体を予防できるメリットがあります。
また、生ワクチンだからこその注意事項もあります。

「フルミスト」にご興味ある方は、フルミストを取り扱っている病院・クリニックに一度相談してみるとよいでしょう。

■2017年-2018年度「フルミスト」を取り扱っている病院は、下記の記事で詳しくご紹介しています。
2017-2018年フルミストを取扱う病院(東京・大阪・福岡、他)受診方法・料金

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