1. 尼崎市でも感染が拡大する麻疹(はしか)、大阪府知事も不備を認める事態に
2016年9月12日時点で、兵庫県尼崎市内の医療機関でもはしかの感染が確認されています。
その人数は18名。はしかに感染したのは、市内の保育所に通う子供やその職員、男子大学生です。
このうち、男子大学生は先月8月に関西国際空港を利用したということですが、詳しい感染ルートはまだはっきりと判明していないようです。
ジャスティンビーバーのコンサートに引き続き関西空港まで。止まらない麻疹(はしか)の脅威
大阪府の不備の甘さと感染の実態
また、大阪府知事の松井一郎知事は9月7日の記者会見で、府の対応の甘さについて不備を認める発言をしました。
大阪府ははしかの最初の感染を8月17日に確認していました。
しかし、同31日まではしかの感染を公表しなかったことについて「ここまで感染(拡大)すると考えなかった。甘い部分があった」と述べました。
関西国際空港に関連したはしかの感染者数は、9月13日時点のところ、大阪府が発表した関西国際空港の事業所での感染者数(陽性反応を示した人数)は33人です。
参照:関西空港内の事業所における麻しん(はしか)の集団感染について(第12報)-大阪府
また、一部報道では利用者含めて39人とも発表されています。
いずれにしても、30人以上のはしかの感染者を発生させてしまったことに対し、大阪府は新たな対応を考えていかなければならないでしょう。
2. はしかの感染が認められた場合、医者や行政の対応は?
既に18名のはしかの感染が確認されている尼崎市では、国立感染症研究所の疫学調査チームに協力を要請しました。
また、大阪府でも9月7日に2府4県の感染症対策担当者らを集めた緊急会合を大阪市で開き、対応策を協議しました。この会合には国立感染症研究所も参加しています。
このように行政が専門家を招いて協議することは、感染症が確認されたとき以外でもよく見る光景です。
ゴジラが襲来したって巨災対のように集まります。
こうして集まる理由の一つに、「法律によって定められているから」があると思います。
①国の対応
「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」という法律が平成10年に成立しました。「感染症予防法」や「感染症新法」という呼称もあります。
様々な感染症の分類をするとともに、国民や行政、医療機関のそれぞれの義務が述べられているのが特徴で、包括的に感染症予防について定義されています。
その中で、麻疹(はしか)は第6条の定義の部分で「麻しん」として5類感染症として定義されています。
また、医師への義務として全数報告を規定しています。(第12条第1項第1号および施行規則)
全数報告とは?
感染症の全数報告は、全ての医師が対象となり、感染の報告を義務付けられています。1類から4類までの全ての感染症と麻しん、侵襲性髄膜炎菌感染症が対象となっています。
また、これらの多くの感染症は発見次第すぐに報告することも義務付けられています。
反対に、指定された医療機関が届け出を行う報告を定点報告と呼びます。また、報告の時期も週単位から月単位までまちまちです。
ガイドラインの発表や臨時の交付も
厚生労働省は、各行政機関向けにガイドラインの発布も行っています。各症状別に述べられているため、私たち国民が参考にするならこちらの方が分かりやすいと思います。
また、今年のように感染の拡大が認められている場合、改めて周知と注意を促す目的で文書が交付されます。
文書例:麻しんの広域的発生について(情報提供)-厚生労働省健康局結核感染症課長
②行政の対応
都道府県知事は感染症予防のために、国が定めた基本的な指針に従って行動しなければなりません。
基本的には
- 予防のための施策
- 管理のための施策
- 調査のための施策
- 検査のための施策
の4つの施策が大まかですが義務として感染症予防法に記されています。
場合によっては国(厚生労働省)に届け出をしたり、患者や医療機関に検体を要請したり、医療関係者に協力を求めたりとにかく忙しいですね。
今回の大阪府の場合、3の「調査のための施策」部分の厚生労働大臣への報告が遅れてしまったと思われます。
詳しくは感染症予防法の14条と15条を見ると分かるかもしれません。
③医療機関の対応
もし麻疹(はしか)の疑いがある患者が来院した場合、医療機関は全数報告の義務があるため、本当にはしかに感染しているか検査をしなければいけません。
最寄りの保健所長を経由して都道府県知事へはしかの感染を届け出るための基準は次の通りです。
- 臨床症状
- 病原体診断
所見や外見から診断する臨床症状
1の臨床症状は、①はしかの特徴的な発疹②発熱③咳、鼻汁、くしゃみなどのカタル期(感染後2日から4日)に見られる症状が挙げられます。
はしかの特徴的な発疹にはコプリック斑と呼ばれる臼歯に対する部分に境界明瞭なやや隆起した粘膜疹などがあります。
私たちがもしはしかに感染したら、臨床症状はすぐに判明すると思います。
検査によって診断する病原体診断
2の病原体診断は3種類の検査が実施されます。
患者の咽頭拭い液、血液、髄液、尿を採取して行われる①分離・同定による病原体の検出②検体から直接のPCR法による病原体の遺伝子の検出、血清を用いて行われる③抗体の検出です。
こちらは、感染が疑われるときは、血液や尿の採取が求められます。心の準備をしましょう。
総合的に届け出を判断
届け出基準は、Ⅰ臨床症状の全てを満たすⅡ臨床症状の全てを満たし、かつ病原体診断が行われている
の2点です。
また、臨床症状のどれか1つ以上が認められていて、病原体診断が行われている場合は「修飾麻しん」と診断され、接触状況や地域のはしかの発生状況を鑑みてはしかとして報告するか判断されます。
参照:医師による麻しん届出ガイドライン 第四版-国立感染症研究所感染症疫学センター
④患者の対応
「もしかしてはしかに感染したかもしれない」と不安に思い、病院に行ったところ、問診や血液検査などを受診します。
検査の結果はしかと診断されてしまった場合、担当医へ話すことを知っておくことが「患者の対応」だと考えます。
- 感染したと推定される年月日(感染源と会ったと思われる年月日)
- 感染したと思われる地域
- 発病日
- 潜伏期(発病する2,3週間前)の行動歴
- ワクチンの接種歴
- 家庭内発生状況
- 職種
- 氏名、年齢、電話番号
が主に医師から聞かれる内容でしょう。
例えば、「8月の終わりごろに関西国際空港を利用した」や「千葉のジャスティンビーバーのコンサートへ行った」などはこれらの情報から判明しています。
感染症の対策に重要な情報ばかりなので、本人もしくは保護者が、覚えている範囲で構わないので正確に答えることが出来るようにしましょう。
他にも、医師だけでなく地域の保健所から連絡が来る場合があります。
はしかに感染して辛い時期だとは思いますが、患者も出来るだけ協力するよう国や行政も呼び掛けています。