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2016年8月3日更新

熱中症を症状で判別するのはもう古い?新基準の「重症度」とガイドラインについて

「日射病」「熱射病」等に分類されていた「熱中症」。2015年公開のガイドラインでは「重症度」による判断を推奨しています。頭痛や下痢、おう吐等の症状は医療機関での診察が必要な中度の危険に該当。熱中症の新基準を知り、迅速な対応に役立てましょう。
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1. 暑さを我慢しないで!熱中症とは?

人間の身体はバランスで保たれています。

人体を構成する様々な物質のうち、人間の身体の大部分は水分で占められています。

年齢や性別で個人差はありますが、赤ちゃんで約75%、成人では60~65%、老人では50~55%が水分で構成されています。

この体を構成している水分が、たった数%減少するだけで私たちの身体には様々な異変が生じ、場合によっては死に至ります。

参照:体内での水分の働き-サントリーのエコ活

高温の環境下で、この体内の水分や塩分バランスが崩れ、体内の調整機能が不全になることで発症する障害の総称を「熱中症」と呼びます。

この熱中症という症状は、以前は患者の病態や症状で治療法を区別していました。

しかし2015年3月に、日本の熱中症の認識と対策に大きな進展がありました。

日本救急医学会によって、「熱中症診療ガイドライン2015」が作成されたのです。

2. 熱中症になる原因は環境・身体・行動にある!心配な人はチェックを!

人が熱中症になる要因は、大きく3つに分けることが出来ます。

  • 環境の要因
  • 身体の要因
  • 行動の要因

これらの要因が重なり合い体温の調節がうまく機能しなくなった結果、身体のバランスが破綻し、熱中症を引き起こします。

環境の要因

数ある環境の要因の中で、「気温の高さ」「湿度の高さ」「輻射源(熱を発するもの)による影響」の3つは環境省が発表している熱中症に関係する指標「暑さ指数(WGBT)」でも取り入れられている重要な要因です。

暑さ指数とは?

温度の効果、湿度の効果、輻射熱の効果をそれぞれ1:7:2の割合で集計し、計算した温度の指標です。

全国の暑さ指数はこちらのサイトで知ることが出来ます。

参照:暑さ指数(WGBT)の実況と予測-環境省熱中症予防情報サイト

参照:暑さ指数(WBGT)について学ぼう-環境省熱中症予防情報サイト

その他にも、風が弱い日や日差しの強い日といった天候の状況や、急に暑くなったり熱波に見舞われるなどの急な環境の変化、閉めきった室内での生活や家にエアコンが無いなどの住環境が要因として考えられます。

身体の要因

特に高齢者や幼児は、周りの人も含め熱中症に対してより注意を払わなければなりません。

高齢者は、体内の水分が不足する傾向がみられ、暑さに対する感覚機能や調節機能の低下するといった理由から、特に熱中症に注意が必要です。

幼児は、皮膚面積の少なさによる発汗や血管拡張などの熱放散の難しさ、暑さに対する感覚機能の未熟さ、さらにアスファルトなどの輻射熱の熱源に近いといった理由から熱中症に注意が必要です。

またその他の方でも、肥満ぎみであったり、低栄養状態や脱水状態、体調に不安をお持ちの方も気を付けて下さい。

体調不良のうち、二日酔いはお酒に含まれるアルコールが利尿作用を促進し、体内の水分が不足している状態ですので、熱中症になりやすいです。

参照:高齢者と子どもの注意事項-熱中症環境保健マニュアル

行動の要因

  • 激しい運動
  • 慣れない運動
  • 屋外での長時間の運動
  • 水分補給がしにくい

発汗による汗の蒸発や、皮膚の温度を上昇させて外気に熱伝導させる「熱拡散」のキャパシティーを越える行動をすると、身体に異常が起こり、熱中症になってしまいます。

熱中症になりやすい人・なりにくい人

これまで挙げた要因に関係している人以外にも、熱中症になりやすい人の特徴をまとめました。

  • 過度の衣服を着ている人
  • 普段から運動をしていない人
  • 暑さに慣れていない人

さらに、心臓疾患や糖尿病、広範囲の皮膚疾患をお持ちの方も「体温調節が苦手な状態」になっている場合があります。

また服用している薬によっては発汗や体温調節を抑制するなど自律神経に影響を及ぼすものもありますから、治療中の病気だけでなく、熱中症にも一層注意が必要です。

3. 熱中症は頭痛や下痢、吐き気といった症状だけで判別しない!重症度で総合的に判断する新たな方法とは

熱中症は、以前は「日射病」や「熱射病」のように症状や病態で区別されていました。しかし近年は、「熱中症は実際の病態がはっきり分かれていない」という認識から、脱水、塩分不足、体温上昇など様々な現象や程度の変化を組み合わせて、重症度や緊急度でそれぞれⅠ度(軽度)・Ⅱ度(中度)・Ⅲ度(重度)の三段階に分類する診断基準が主流になってきています。

主な症状 従来の分類方法 【症状】 新しい分類方法 【重症度】
目まい、立ちくらみ、軽い頭痛、吐き気 熱失神(日射病) Ⅰ度
こむら返り、筋肉痛 軽度の熱けいれん Ⅰ度
重度の熱けいれん Ⅱ度
下痢、頭痛、おう吐、虚脱感 熱疲労 Ⅱ度
 肝機能・腎機能障害、意識障害 熱射病 Ⅲ度

参照:熱中症診療ガイドライン2015-日本救急医学会

それぞれの詳しい解説は次の通りになります。

従来の分類【症状別】

熱中症」という言葉がメジャーになる前に、一般的に使われていた病名は「日射病」と「熱射病」です。この二つの病気と「熱中症」の違いは、症状別分類で判別することができます。

熱失神(日射病)

症状別分類で最も軽い症状です。

主な症状は、一過性の意識喪失、起立性低血圧(立ちくらみ)、顔面蒼白、寒気、目まいです。

熱失神が起こる流れは、炎天下に直射日光を浴び続けると、熱の放散のために皮膚血管が広がり、血管を流れる血液の量が増えます。

すると下半身に多く血液が流れてしまい、脳へ向かう血液量が減少するため、熱失神が引き起こされます。

熱けいれん

主な症状は、気温や湿度の高い環境(暑熱環境)で起こる有痛性のけいれんです。通常下半身の筋に多く起こりますが、上半身に起こることもあります。

熱けいれんが起こる理由は、暑熱環境で長時間運動を行いたくさん汗をかくためです。このとき、真水や塩分濃度の低い飲料(お茶やコーヒー)を補給していると、血液中の塩分濃度が低下し、よりけいれんが引き起こされやすくなります。

熱疲労

主な症状は熱けいれんと似ていますが、熱疲労の特徴は全身に及ぶ症状が引き起こされることです。

症状も多岐に渡り、下痢やおう吐、頭痛、脱力感、倦怠感が見られます。重度になると失神や軽度の錯乱状態に陥ることもあるため、熱けいれんより深刻な状態です。

熱疲労が起こる理由は、大量に汗をかいたときに引き起こされる血中の塩分不足に加え水分不足が原因です。

水分と塩分(ナトリウム分)のバランスが崩れ、水分>ナトリウム分となり、体液の浸透圧が高くなる脱水症状(高張性脱水)が引き起こされます。

さらに、高温の環境に対処するために、血液が体温を下げるよう皮膚の表面や筋肉に大量に流れると、心臓に送られる血液量が減少します。

すると心臓から送られる血液量も減少するため、脳や内臓などさまざまな器官に影響を及ぼし、めまいや頭痛、吐き気といった症状が表れます。

熱射病

熱中症を症状別でみた場合、熱射病は最も重篤な症状です。

熱疲労の状態が進行すると、身体機能のうち発汗と皮膚血管の拡張という2つの大事な熱放散反応が、脱水により抑制されてしまいます。

すると、体温やその中でも最も重要な脳の温度が40℃以上という危険域まで上昇してしまいます。

主な症状は、熱疲労でも見られた症状(下痢、おう吐、頭痛など)や重度の昏睡や意識障害が見られます。

更に症状が進行すると、多臓器不全やDIC(播種性血管内凝固症候群)といった合併症を併発し、最悪の場合命にかかわります。

参照:熱中症の種類-大塚製薬

熱中症診療ガイドラインに基づく新しい分類【重症度別】

2015年3月、日本救急医学会が熱中症診療ガイドラインを発行しました。

ガイドラインの中で熱中症について「日本救急医学会熱中症分類」という新たな分類をまとめています。

分類を行った理由について、ガイドラインではこのように記述されています。

初期対応にあたる非医療従事者が最も重症な状態 を過小評価しないために、暑熱による障害を一括して「熱中症」という症候群としてとらえたうえで、 重症度に応じて 3 段階に分類したものが「日本救急 医学会熱中症分類 1)」である。

(出典)日本救急医学会発行「熱中症ガイドライン2015」

つまり、熱中症の旧来の分類にとらわれることなく、医療機関以外の学校や職場、介護現場においても迅速な対応が求められています。

 

この症状や病態を「重症度」という一つの軸で整理する分類方法は、諸外国に例を見ない画期的なものです。

重要なことは、症状や病態から熱中症のレベルを判断するのではなく、患者の様子や環境、経過時間、処置方法などあらゆる状況や状態に即した判断をすることです。

熱中症ガイドライン2015は、発症した熱中症が現場で対応可能なレベル(重症度:Ⅰ度)か、病院に行く必要があるレベル(重症度:Ⅱ度以上)か一般の方が判断しなければならないとき、判別が分かりやすくシンプルになっているのが特長です。

ガイドラインが掲げる重症度の区分は次の通りです。

Ⅰ度(軽度)

症状としては軽度なものが多く、現場で対処可能な病態とされているレベルです。

症状例は、めまい、立ちくらみ、生あくび、大量の発汗、強い口渇感(口、のどの渇き)、吐き気、寒気、筋肉痛、筋肉の硬直(こむら返り)があります。

従来の分類方法では、熱失神(日射病)や熱けいれんが該当します。

Ⅱ度(中度)

症状としては中度のもので、医療機関での診察が必要になるレベルです。

症状例は、頭痛、おう吐、下痢、倦怠感、虚脱感、集中力や判断力の低下が見られます。

また、これらの症状が表れない一方で、Ⅰ度の症状に改善が見込まれない場合でも、Ⅱ度として判断し医療機関への診察が必要となります。

従来の分類方法では、熱疲労が該当します。

Ⅲ度(重度)

症状としては最も重く、入院措置や場合により集中治療が必要になるレベルです。従来の分類方法では、熱射病が該当します。

下記の3つのうちいずれかに該当すればⅢ度と判定されます。

①中枢神経症状

時間や季節、今いる場所が分からないレベルの意識障害(見当識障害)や小脳症状(運動失調)、けいれん発作が表れている。

②肝臓・腎臓の機能障害

入院経過観察、入院加療が必要な程度の肝障害もしくは腎障害が表れている。

③血液凝固異常

急性期播種性血管内凝固症候群(DIC)の診断基準を満たしている。

参照:急性期DIC診断基準とは-金沢大学血液内科・呼吸器内科

重症度分類の注意点!大事なのは「迅速な現場の見極め」

暑熱環境下におけるすべての人の体調不良に、熱中症の可能性が考えられます。

ですので、それぞれの重症度の患者に、必ず目まいや下痢、頭痛、吐き気といった症状が起こるとは限りません。これらの分類方法は、あくまでも目安として判断することが望ましいとされています。

「目まいや筋肉痛といったⅠ度(軽度)の症状が収まらないけれど、頭痛や下痢といったⅡ度(中度)の症状が表れていないから、病院に行くのは止めよう」といった自己判断はしないように気を付けましょう。

熱中症の症状や患者の容体は、患者側の様々な条件や救護のタイミング、環境によって刻々とかつ流動的に変わっていきます。

発汗量や体温、意識障害の程度は変化が激しいため、救護や経過観察のときは特に注意が必要です。

最も大事なことは、「熱中症にかからないこと=予防」ですが、もし熱中症になってしまった場合でも、このガイドラインを参考に現場にいる自身や周りの人が正しく判断し、適切な処置をすれば、重症化を防ぐことが出来ます。

【体験談】熱中症を気にせず作業をした女性。症状が進行してしまいました

昔、夏場に外の炎天下で仕事をしている時に軽い熱中症にかかりました。

外で2時間ほど汗ダラダラで作業をしていると、顔がほてり、軽い立ちくらみをおこしましたが、気にせず作業を続けていると、頭痛と吐き気も起きるようになり、もしかしてこれは熱中症かもしれないと思い、作業を中断して日陰に入り、水分を取って休んでなんとか倒れるまでには至らず済みました。

(出典)この時期なりやすい熱中症

その他の分類方法【かかり方】

重症度で分類する方法の他にも、熱中症のかかり方に注目した分類方法があります。

熱中症になった人の当時の状況によって分類することが出来ます。

それは「労作性熱中症」「非労作性熱中症」です。

この分類方法は、治療を始めるときにまず確認するべき大事なものです。

病院や医療機関を受診するときに、患者がどういう経緯で熱中症になってしまったのかを説明するときや、予後の経過を予想するときの助けになるでしょう。

労作性熱中症

このタイプの熱中症は、屋外や炎天下の暑熱環境とスポーツや肉体労働が合わさってかかる場合が多く、特に男性の、若年層から中年層にかけて発症しやすいです。

発症までの時間は数時間と早いため、本人や周りもすぐに異変に気付くことが出来ます。

注意するポイントは、まだ仕事に慣れない時期の肉体労働や、ついつい本人や周りが頑張ってしまいなかなか周りに異変を申告できない学校行事やクラブ活動です。

現場の責任者や、先生、監督やコーチなどの指導者の方は全体に注意を配るとともに作業や練習の柔軟な対応、熱中症であると申告しやすい環境づくりが必要です。

労作性熱中症は重症度の段階の変化も早く、いきなり下痢や吐き気、頭痛のようなⅡ度の症状が現れる場合や、適切な処置を行えばすぐに症状が治まる場合があります。

重症度Ⅰ度(軽度)のような初期の段階での身体の異変を見逃さず、落ち着いて治療に臨みましょう。

非労作性熱中症(古典的熱中症)

このタイプの熱中症は、屋内で起こります。特にかかりやすいのが高齢者で、性別による差は見られません。

発症するまでの時間も数日にわたって徐々に悪化していくため、本人も体調不良を自覚しづらいことが大きな問題です。

非労作性熱中症が起こるのは、猛暑日と熱帯夜が連続して発生する時期に、徐々に体力や食欲が減衰し、脱水が進行してしまい、悪化を見過ごしてしまうケースが考えられます。

目まいや筋肉痛などの熱中症初期のⅠ度(軽度)の症状を、熱中症の自覚がないまま長期間放置していると、体験談の方のようにある日突然中度(Ⅱ度)以上の症状が表れる恐れがあります。

【体験談】同居の親が突然意識朦朧に。急いで救急へ連絡

ちょうど梅雨明けてしばらくした頃に、同居の親が突然意識朦朧として嘔吐してバタッと倒れてしまいました。最初は何事かと思い呆然としてしまいましたが、すぐに救急車を手配し横に寝かしつつ介抱しました。とにかく嘔吐物を気管に詰まらせて窒息してはいけないと顔を横に向かせて吐かせるようにし、救急隊の到着を待ちました。その5分後には救急隊は到着し、患者の年齢と性別、持病などが確認され受け入れ先病院へ搬送されました。

(出典)高齢者は気を付けましょう。(夜間でも室内でも)危険な熱中症。

また、労作性熱中症と異なり、長期間身体がダメージを受けていた影響から、体力や調子の回復にも時間がかかります。

4. 無対策の「大丈夫」は危険の第一歩。熱中症の注意点まとめ

熱中症は、高温の環境下で、環境や身体、行動など様々な要因が重なり合って発生する体調不良の総称です。

熱中症は個人差はありますが、あらゆる人がかかる可能性があります。

【体験談】自分は熱中症とは無関係と思っていた女性が、近所で倒れ救急搬送されました。

近年、熱中症で何人搬送されたとか新聞で読む度に、私には関係ないと思っていましたが、去年、近所の銀行まで徒歩で行こうと横断歩道を待つ時に、体がふらっとするなと思うと、立っていられなくなり、視界が白くぼんやりして、しゃがみこみ、そのまま倒れてしまいました。
幸い意識はすぐ戻り、知らない人が自販機でスポーツドリンクを買ってきてくれて、また救急車を呼んでくれていて、救急車が来ました。担架に乗せてくれて、救急車の中で眼振あるなーとか、救急隊員が何かを記載していて、総合病院の救急に到着しました。
(出典)自分とは無関係と思っていた熱中症。近所で倒れて救急搬送。

「この位の気温だったら大丈夫」「自分は今までかかったことが無いから大丈夫」と過信せず、きちんと心の準備や対策をするようにしましょう。

参考URL

「熱中症の発生機序および予防・対処法」著:2014年熱中症講習会資料編集委員会

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