1.おたふく風邪は、自然感染で起こる合併症が意外と多いウイルス感染症。
子どもが感染する伝染病として、”耳の下が腫れる”ことで有名な「おたふく風邪」。
しかし、おたふく風邪に感染するのは、子どもだけではありません。
免疫がなければ、大人だって感染するのです。しかも、大人がおたふく風邪に感染すると、子どもよりも重症化しやすいと言われています。
おたふく風邪の原因は、ムンプスウイルスです。
感染経路は、接触感染・飛沫感染となります。
また、潜伏期間が2~3週間と長く、この潜伏期間中からウイルス排出が始まり、高熱や耳の下が腫れる(発症する)前後5日が感染力ピークとなる”ウイルス感染症”です。
おたふく風邪で起こる合併症のうち、「ムンプス髄膜炎(無菌性髄膜炎)」、「ムンプス難聴」は比較的発症頻度が高い傾向があります。
■おたふく風邪の症状・経過・治療法などについては、以下の記事で詳しく説明しています。
2016年夏大流行!感染力が強い「おたふく風邪」の症状・経過・感染経路
■おたふく風邪の感染期間・免疫・予防法などについては、以下の記事で詳しく説明しています。
腫れ始め前後5日が感染力ピーク!おたふく風邪の感染期間・予防法・体験談
2.おたふく風邪発症の約50人に1人!? ムンプス髄膜炎(ずいまくえん)
ムンプスウイルスは、中枢神経系に親和性があります。
そのため、ムンプス髄膜炎とは、脳や脊髄を覆っている髄膜に、おたふく風邪の病原菌”ムンプスウイルス”が感染して炎症を起こす病気です。
おたふく風邪に自然感染した患者の約65%以上に、髄液の細胞数が基準値よりも多くなることが認められるとする研究結果がありますが、その多くは無症状です。
その中で、約3~10%に「ムンプス髄膜炎」が併発するとされています。
また、ムンプス髄膜炎は、ウイルス感染によって起きる髄膜炎のため、「無菌性髄膜炎」や「ウイルス性髄膜炎」に分類され、髄膜炎の中では、症状が軽いものとされます。
ムンプス髄膜炎の4大症状
- 頭痛
- 発熱
- 嘔吐
- 項部硬直(こうぶこうちょく)
仰向けで後頭部に手を当てて持ち上げようとすると、うなじが硬直して首が曲がらず、前胸部に顎がつかなくなる状態。髄膜炎の時の症状の一つ。ただし、乳児の場合はもともと首が軟らかいので、項部硬直がなくても髄膜炎を発症している可能性も否定できないため、大泉門の膨らみが髄膜炎の診断に有効であると言われています。
稀に嗜眠状態(しみんじょうたい……眠ったような状態で強い刺激を与えないと反応しない)・昏睡などの意識障害やけいれんをきたす場合もあります。
ムンプス髄膜炎の検査方法・診断 <脳脊髄液検査(のうせきずいえきけんさ)>
別名、腰椎穿刺検査(ようついせんしけんさ)。医師用語では、「ルンバール」と呼ばれています。
髄膜炎の主な症状である、頭痛・発熱・嘔吐・項部硬直などの症状が出た場合に行うことが多いものです。
背中側から背骨の間(第3、第4腰椎間)に流れている髄液を5ml程度採取する検査。
単核球(白血球の一種)を主とする細胞の増加があるかを調べます。
局所麻酔を行う時にチクッとしますが、すぐ麻酔が効くので、圧迫される感じはありますが、検査中の痛みは感じない人が多い検査です。
検査自体は5~6分で、その後枕を使わずに1~2時間、上向きで安静にします。
最近では、髄液からのウイルス分離検査で、そのムンプスウイルスが、ワクチン株(予防接種の際のワクチン)か野生株(自然感染)かの判定ができるようになっています。
治ったことの確認のため、検査2~3週間後に再度腰椎穿刺検査を行います。
ムンプス髄膜炎の発症確率・発症時期・経過・後遺症は?
- 発生確率
おたふく風邪発症の約50人に1人の割合。女性よりも男性の方が多い傾向。
- 発症時期
ほとんどが、耳下腺(耳の下)の腫れが現れて5日程度経ってから。
その際、再発熱を伴う。
耳の下が腫れる前に発症することも約20%あり、さらに耳の下が腫れたりする症状が出ない不顕性感染の場合にも、稀に発症することがあります。
- 経過
概ね良好で、約2週間で治ることが多い。
ただし、稀に髄膜炎が重症化して、「おたふく脳炎」や「ムンプス難聴」になることがあります。
- 後遺症
ほとんど後遺症は出ません。
ただし、稀に神経性難聴や顔面神経麻痺が残る場合も。
(参考)ホントに必要? おたふくかぜワクチン – 日本小児感染症学会
こちらのページでは、おたふくかぜの疫学・ワクチンと自然感染の合併症頻度などについても解説されています。
■症状が出ない不顕性感染については、以下の記事で詳しく説明しています。
2016年夏大流行!感染力が強い「おたふく風邪」の症状・経過・感染経路
ムンプス髄膜炎は、入院治療になることも。
ムンプスウイルスには、現状抗ウイルス剤という特効薬が存在しないため、不快症状に対する治療(対症療法)が行われます。
発熱や痛みが強い場合には、鎮痛解熱剤が使用され、嘔吐が激しく脱水症状を起こしている場合には、点滴治療も行われます。
また、髄液検査で髄液を抜くことで、頭痛や嘔吐が少し改善されるという報告があります。
ムンプス髄膜炎は、通常「入院治療」が必要になりますが、安静にしていれば2週間程で治ってくるため、症状が軽い場合には「自宅療養」となることもあります。
ムンプス髄膜炎に合併することがある「おたふく脳炎」
「髄膜炎」とは、脳や脊髄を覆っている髄膜に炎症を起こす病気ですが、「脳炎」は髄膜だけではなく、脳も炎症を起こしている状態で、髄膜炎に併発して起こる病気です。
- 発症確率
おたふく風邪発症のうち0.02%~0.3%で、約5,000~6,000人に1人。年間約30人が発症しているという報告も。
- 症状
ムンプス髄膜炎の症状に加え、痙攣や意識障害が起こります。
また、痙攣や意識障害がなくても、39度以上の高熱の最中、不可解なことを言ったり、不可解な行動をする場合にも、脳炎の可能性が疑われますので、速やかに医師に相談しましょう。
- 発症時期
耳の下が腫れてくるなどの症状が現れて2~3日で急激に発症します。
- 経過
ウイルス性の脳炎の中では、経過が良い方。
- 治療法
対症療法が主で、脳圧を下げる治療をし、自然に治るのを待ちます。
- 後遺症
約3割に麻痺・難聴・運動障害・てんかんなどの後遺症が残る場合や死に至る場合があります。
(参考)感染症・予防接種レター(第46号): 日本小児保健協会予防接種・感染症委員会
こちらのページでは、ムンプス脳炎の頻度と予後について、解説されています。
3.かかると聴力が改善しにくい!ムンプス難聴
おたふく風邪によって起こる難聴を「ムンプス難聴」と呼ばれています。
片耳だけの高度の急性難聴であるため、治りにくいとされています。
ムンプス難聴が起こる原因・しくみ
ムンプスウイルスは、脳や脊髄、内耳などの中枢神経に感染しやすい性質を持っています。
そもそも人は、外から入ってきた音の振動を鼓膜の奥にある”内耳”と呼ばれる場所で感じ取っています。
伝わってきた振動は、音を感じ取る細胞(有毛細胞)により、電気信号に変換され聴神経へと伝えられ、脳で音を認識します。
その音を感じ取ることに重要な役割を担っている有毛細胞にムンプスウイルスが感染することで、組織が破壊され、振動が電気信号に変換されなくなるため、聞こえなくなるムンプス難聴が発症します。
ムンプス難聴は幼児・学童期に多い。
ムンプス難聴は、15才以下の子どもが多く、中でも5~9才までの幼児・学童期に多いとされます。
しかし、前述の通り片耳だけの発生が多いので、片耳で起こっている異変をきちんと大人に伝えられないお子さんも多くいるため、患者数にきちんとカウントされていない可能性もあります。
また、ムンプス難聴は、子どもの頃に気づいたら聴力を失っていたケースの原因の一つとも言われています。
ムンプス難聴の症状・発症確率・発症時期・後遺症は?
- 症状
突然のめまい、耳鳴り、嘔吐、ふらつきなどと合わせて、急に耳が聞こえにくくなります。
めまい症状は、小児よりも大人に発症しやすいと言われ、めまいは2か月以内には軽くなります。
- 発症確率
おたふく風邪を発症した0.2%から1.1%。約1,000人に1人がムンプス難聴を発症し、年間700人程度がかかっていると推定されています。
また、耳の下(耳下腺)の腫れの強さとムンプス難聴との発生は無関係。
耳の下が腫れない不顕性感染でも、ムンプス難聴を発症することも!
- 発症時期
おたふく風邪の発症(発熱や耳の下が腫れる主症状が出る)の4日前から18日以内。
多くは、おたふく風邪発症3~7日頃。
- 後遺症
生涯、音が聞こえにくくなる重度の難聴となります。
ムンプス難聴には、有効な治療法がない。
前述のムンプス髄膜炎・脳炎同様に、原因であるムンプスウイルスに対する効果的な治療法がないため、ムンプス難聴にも特効薬的な治療はありません。
僅かな可能性として、ステロイドの投与など行われますが、聴力の改善はあまり見込まれないのが現状です。
残っている正常な耳をその他の中耳疾患や騒音などで、悪くしないようにすることがとても大切です。
特に10才以下の子どもでは、鼻が悪いことで急性中耳炎や滲出性中耳炎などを引き起こすことがあるので、一層注意が必要です。
(参考)ムンプス難聴と聴覚補償:国立感染症研究所
こちらのページでは、ムンプス難聴の頻度や聴覚補償が必要となる場合などについて、解説されています。
4.成人男性は不妊症に繋がることもあるので要注意!睾丸炎(精巣炎)と卵巣炎
大人に多い合併症① 睾丸炎の症状・診断方法
<睾丸炎の症状>
睾丸の腫れと激痛が起こり、発熱、頭痛、気持ち悪くなったり、下腹部痛を伴います。
睾丸の萎縮を起こすこともあります。
ほとんどは片側のみの炎症ですが、ムンプスウイルスによる睾丸炎になった約10%前後は、両側発症することも。
<睾丸炎の診断方法>
おたふく風邪にかかった後ということと、睾丸の状態(腫れていたり、痛みがあるなど)から、診断されることが多いです。
精液、血液などから、ウイルス検査を行うこともあるようです。
睾丸炎の症状が見られたら、早めに泌尿器科へ受診するようにしましょう。
また、受診の際にはマスクをするなど二次感染への配慮をお忘れなく!
大人に多い合併症① 睾丸炎の発症確率・時期・後遺症
- 発症確率
おたふく風邪を発症した思春期以降・15才以上の男性のうち、20%~30%で発症と比較的高い頻度で合併します。
しかし、思春期以前の発症は、ほぼありません。
- 発症時期
おたふく風邪発症から4~10日後に多くが発症すると言われています。
- 後遺症
片側のみの炎症であることが多く、睾丸の萎縮がみられる場合でも、もう片方が正常であれば不妊症になる可能性は低いと言われています。
しかし、両側で重症化した場合、無精子症になり男性不妊に繋がることもあります。
大人に多い合併症① 睾丸炎は、痛み止めと冷やして経過観察。
原因のムンプスウイルスには特効薬がないため、睾丸炎でもやはり対症療法となります。
そのため、解熱鎮痛剤の処方や冷湿布など陰嚢を冷やすなどをして、経過観察することが多いようです。
(体験談)子どもから感染し、夫が重症化。髄膜炎の後さらに睾丸炎を合併。
子供がおたふく風邪にかかり、夫にも感染しました。毎日40度の高熱が続き、子供は1週間で完治しましたが 夫は一向に良くならず、頭痛がひどくなり割れるような痛みと吐き気がひどいので 病院へ行き診察をしてもらいました。
検査結果、おたふく風邪からの合併症の髄膜炎と診断されました。
その後、数日経っても全く変わらず、今度は腎臓辺りの痛みが出てきました。
そして 睾丸が腫れ上がり 歩くのがやっとの状態になってきたので、もう1度 診察を受けると これも 合併症の睾丸炎との診断結果でした。
おたふく風邪を発症してから、髄膜炎、髄膜炎と続き 完治するのに約1ヶ月かかりました。
その頃 丁度 不妊治療も同時に受けており、検査したところ、精子の数が0という結果に。
とてもショックを受けました。
3ヶ月後に再度検査を受けると、数は少ないけども復活して安心しました。
今回、おたふく風邪の怖さが身に染みる体験でした。(引用元):おたふく風邪からの合併症(髄膜炎・睾丸炎)
大人に多い合併症② 卵巣炎の症状・検査方法は?
<おたふく風邪による卵巣炎の症状>
下腹部の強い痛み・高熱が出てきます。
さらに、重症化すると、吐き気・嘔吐・不正出血・おりものの増加がみられるようになります。
炎症が治ってきても、慢性化して、腰痛、月経痛などが起こったり、倦怠感などの症状が出ることもあります。
<卵巣炎の検査方法>
おたふく風邪を発症していることなどの問診と触診によって診断されます。
大人に多い合併症② 卵巣炎の発症確率・時期・後遺症は?
- 発症確率
おたふく風邪を発症した成人女性の1割弱。
- 発症時期
おたふく風邪発症と同じタイミング。
- 後遺症
特に残らず、その後も正常に排卵されることが多いです。
また、卵巣炎も片方だけ炎症の場合が多いので、もし重症化しても、もう片方が正常に排卵していれば、不妊に繋がることは非常に少ないとされています。
大人に多い合併症② 卵巣炎の治療も対症療法。
卵巣炎についても、やはり対症療法となります。
通常の発症期間は、3~7日程度となり、消炎剤などの薬で卵巣の炎症を抑えます。
しかし、慢性化してしこりが残った場合などは、炎症部分を切り膿を取り除く手術が必要となります。
おたふく風邪で起こるその他の合併症とは?
<膵臓炎(すいぞうえん)>
- 症状
ムンプスウイルスが感染する耳下腺と膵臓は、非常に似た組織と言われています。
急にお腹のみぞおちあたりを痛がる場合には、膵臓炎が疑われます。
他にも、上腹部痛、吐き気、嘔吐、下痢など症状も出る場合があります。
重症化することは、あまりありません。
- 発症時期および期間
おたふく風邪発症後7~10日頃に発症。また、約1週間で治ることが多い。
<心筋炎>
おたふく風邪によって発症する可能性は、極めて少ないと言われていますが、稀に突然死に至ることもある怖い合併症です。
- 症状
胸痛、頻脈、呼吸困難、
- 発症時期
おたふく風邪発症後、1~2週間してなることがあります。
(参考)流行性耳下腺炎(ムンプス、おたふくかぜ):国立感染症研究所
こちらのページでは、おたふくかぜの症状や疫学・診断方法について、解説されています。
5.おたふく風邪による合併症は、予防接種で発症および重症化を防ぐ。
ムンプスウイルスは、広く全身の臓器に感染する性質を持っているため、いろんな合併症を引き起こす可能性があります。
しかし、前述の通り、ムンプスウイルスには、効果的な治療薬がありません。
どんな合併症を起こしても、不快症状の対症療法となります。
そのため、合併症の一番の予防法は、おたふく風邪のワクチン接種を行って、おたふく風邪の発症そのものを防ぐこと!
ワクチンによる合併症の発症の可能性も完全なる0%ではありませんが、自然感染によって起こる合併症の可能性よりもはるかに低いのです。
おたふく風邪による合併症は、比較的軽症で済むことが多いですが、ムンプス難聴は一生残る後遺症を起こす合併症であり、場合によっては死に至る合併症もあります。
2017年現在、おたふく風邪のワクチン予防接種は、2回推奨の自費による任意接種となっていますが、助成金を出す自治体もあります。
また、おたふく風邪のワクチン接種は、1才から行うことができ、抗体獲得率は90%とされています。
そして、大人のおたふく風邪は、我が子がおたふく風邪に感染したことによる二次感染が多いと言われます。
早めに予防接種を済ませておいて、おたふく風邪による合併症で重症化することを防ぎましょう!
■おたふく風邪の予防接種の効果や時期など詳細については、以下の記事で詳しく説明しています。
おたふく風邪は予防接種で防げる!効果や副作用は?接種の時期と回数・費用