1.喘息(ぜんそく)治療の目的は症状のコントロール。
喘息患者さんは、慢性的に気道に炎症を起こしていて、ちょっとした刺激があればすぐに発作が起きてしまう過敏な状態にあります。
これを「喘息体質」と言い、以前から体質改善のための研究はされていますが、まだ完全な治療法はありません。
現在の喘息治療とは、「気道の炎症を抑え、気管支を広げることによって、健康な人と同じような日常生活を送りながら、患者さんの生活の質(QOL:quality of life)を高めること」を目的に薬物療法や生活指導を行います。
健康な人と同じような生活とは、日常生活の中で喘息発作が起こらずに生活ができるということ。
発作の起きやすい夜や朝方も呼吸困難が起こらなければ、睡眠も妨げられることはなく、ぐっすりと眠れます。
お子さんの場合は、年齢に見合った正常な発育をしているかということも大切なポイントです。
「発作を予防する治療」と「発作を抑える治療」の2つの治療の必要性
喘息治療は、「発作時の症状を抑える治療」だけでなく、「症状が出ないように予防する治療」もする必要があります。
発作の起きた時だけ症状を鎮める薬を飲んでいると、良くならないばかりか、ますます治りにくい喘息へと進行してしまう危険性があるためです。
月に1回以上、喘息発作が起きるようであれば、発作が出ないように予防のための治療が必要となります。
治療を継続し、喘息発作が起こらない状態をキープすることを「喘息コントロール」といい、その基準は「喘息予防・管理ガイドライン」で定められています。
治療の開始時には、コントロール良好な状態を維持することを目標に治療計画をたて、それに沿って治療を続けていくことになります。
≪喘息コントロール≫
コントロール良好 (全ての項目が該当) |
コントロール不十分 (いずれかの項目が該当) |
コントロール不良 | |
---|---|---|---|
喘息症状 (昼間・夜間) |
なし | 週1回以上 | コントロール不十分の項目が3つ以上当てはまる |
発作治療薬の使用 | なし | 週1回以上 | |
運動含む活動制限 | なし | あり | |
呼吸機能 (FEV1及びPEF) |
予測値もしくは自己最高値の80%以上 | 予測値もしくは自己最高値の80%未満 | |
PEFの日(週)内変動 | 20%未満 | 20%以上 | |
増悪 | なし | 年1回以上 | 月に1回以上※ |
※増悪が月に1回以上あれば他の項目が該当しなくてもコントロール不良と評価します。
喘息の段階的治療法。「喘息予防・管理ガイドライン」4つのステップとは?
喘息とひとことで言っても、症状の重さや発作の度合いなどは患者さんによって異なります。
患者さんごとの状態に合わせて薬の種類や使用量など治療法を変えていく必要があるため、「喘息予防・管理ガイドライン」では4つの治療のステップに分けています。
治療ステップは、症状の程度や検査結果をもとに、医師が「喘息予防・管理ガイドライン」で定められた重症度(軽症間欠型、軽症持続型、中等症持続型、重症持続型の4段階)を判定し、それに対応する治療のステップが決定します。
ステップ1(軽症間欠型)、ステップ2(軽症持続型)、ステップ3(中等症持続型)、ステップ4(重症持続型)という具合にそれぞれ対応するステップの治療を開始します。
それぞれのステップの治療開始後に、喘息の症状が3か月間改善されたら、治療の段階を下げて薬剤の投与を減らし(ステップダウン)、逆に症状が悪化したり、現在の薬でコントロール出来ていないと判断された時は、段階を上げて治療を強化することで、喘息の状態を改善させます。(ステップアップ)
(画像引用)成人気管支喘息診療のミニマムエッセンス
※社団法人 日本アレルギー学会が作成した気管支喘息の治療ガイドラインを分かりやすくまとめたものです。
喘息の重症度については以下の記事で詳しく説明しています。
アレルギーやストレスも原因に!急な発作、激しい咳が続く「喘息」の症状とは?
(参考)チェンジ喘息! 喘息(ぜんそく)の治療法
※こちらのページでは喘息治療の基本となる治療ステップについて分かりやすい説明を見ることが出来ます。
2.喘息治療の基本は、「吸入ステロイド(ICS)」で気道の炎症を抑えること。
喘息治療は吸入ステロイド薬(ICS)による治療が基本です。
ステロイドには身体の中に起きている炎症や免疫反応を抑える効果があります。
慢性的な気道の炎症を抑えるために予防薬として毎日、規則的に使用するのが喘息治療の基本となります。
なぜステロイドは吸入するタイプを使うの?
口からステロイド薬を吸い込む吸入タイプは直接気道に薬を届けることが出来るのでお薬がダイレクトに届きます。
またステロイドは使用量が多くなると副作用の心配もありますが、吸入タイプは、使用量が服薬タイプの1/100で済みます。
長期管理薬は、予防のため毎日使う必要性があるので、使用量を少なく抑えることはとても大切です。
服薬タイプのようにステロイドが血液に入って全身を循環することもないので、長期間使用しても全身への影響はほぼないと言われています。
ただし、吸入した後は、薬が口に残ってしまい、声嗄れや口内炎のもとになることがあるので、うがいをして洗い流す事が大切です。
長期管理薬(コントローラー)と発作治療薬(レリーバー)
予防のために毎日使うお薬は、「長期管理薬(コントローラー)」と呼ばれ、症状が出ないように喘息をコントロールします。
それに対し、喘息発作が起きてしまったときに使うお薬を「発作治療薬(レリーバー)」と言います。
喘息発作は命の危険にかかわることもあるため、発作を抑えることを最優先に、即効性のある強めのお薬が使われます。
3.発作予防のためのお薬、長期管理薬(コントローラー)にはどんなものがある?
辛い喘息発作の予防のために毎日、規則的に使うお薬です。
それぞれの患者さんに合わせて必要なものを使用します。
1.吸入ステロイド薬
【代表的なお薬】 アズマネックス、オルベスコ、パルミコート、フルタイド、キュバール
どれも吸入するタイプのお薬で、ステロイド剤を霧状に噴出させ、口から吸いこむことで直接気道に作用をさせます。
強い抗炎症作用がありますが、効果が出るには3日~1週間程かかる場合があり、中断すると効果がなくなってしまうので、症状がない時も毎日続けることが大切です。
2.長期作用型の気管支拡張薬「長時間作用性β2刺激薬(LABA)」
【代表的なお薬】 ホクナリン、スピロペント、べロテック、メプチン、セレベント
β2刺激薬は発作時の症状を鎮める目的で使われる短時間作用性もありますが、持続効果が長い「長時間作用性β2刺激薬」は、気管支を拡張するために毎日の長期管理薬とて使用します。
お薬は吸入タイプ、内服タイプ、貼り薬があります。
3.吸入ステロイド薬/長時間作用性β2刺激薬配合剤
【代表的なお薬】 アドエア、シムビコート、フルティフォーム、レルベア
気道の炎症を抑える効果と、狭くなった気道を広げる効果が同時に得られます。
別々に吸入するよりも、高い効果が期待できます。ステップ2の治療から使用するお薬です。
4.ロイコトリエン受容体拮抗薬
【代表的なお薬】オノン、キプレス、シングレア
気道の炎症をおこしたり、収縮させる「ロイコトリエン」というアレルギー反応によってできる物質の働きを邪魔し、気道を広げ、炎症を抑える効果があります。
5.テオフィリン徐放薬
【代表的なお薬】テオドール、テオロング、ユニフィルLA
炎症を抑え、気道を広げる効果があります。
お薬が少しずつ作用する徐放薬なので、効果が長時間続きます。
6.抗IgE抗体
【代表的なお薬】ゾレア
喘息の原因であるIgE抗体という体内の物質の働きを抑えて、気道の炎症を抑える効果があります。
高用量吸入ステロイド薬など複数の治療薬を使用していてもコントロールできないステップ4の患者さんに使います。
2週間か4週間ごとに病院で注射を行います。
7.ロイコトリエン受容体拮抗薬以外の抗アレルギー薬
【代表的なお薬】 ヒスタミンH1受容体拮抗薬、メディエーター遊離抑制薬、、Th2サイトカイン阻害薬、トロンボキサンA2阻害拮抗薬
気道炎症の原因となるアレルギー反応を抑える効果があります。
抗アレルギー薬にはロイコトリエン受容体拮抗薬が主に処方されますが、個々の症状に合わせてこれらのお薬が処方されることもあります。
(参考)成人気管支喘息診療のミニマムエッセンス
(参考)チェンジ!喘息 発作を予防するための薬
4.即効性のあるお薬で発作を鎮める!発作治療薬(レリーバー)はどんなものがある?
喘息発作が起きてしまったら、まずは発作を鎮めるお薬(レリーバー)を使って、症状を抑えることが先決です。それぞれの患者さんに合わせて必要なものを使用します。
1.短時間作用性β2刺激薬(SABA)
【代表的なお薬】 べロテック、メプチン、サルタノール、アイロミール
気管支を広げる作用が強く、速効性があるので、発作が起きた時に吸入すると、すぐに呼吸が楽になります。
よく使われるエアゾールタイプ(噴霧式)の器具の場合、スペーサーという吸入補助器具を使用すると、さらに効果が高くなります
一度使用しても、効果が見られない場合は20分おきに吸入し、3回吸入しても(1時間たっても)呼吸困難があるようならば病院の救急外来を受診しましょう。
2.テオフィリン薬
【代表的なお薬】 アミノフィリン
気管支を広げ、炎症をおさえる作用があります。
発作時には、長期管理薬の徐放薬ではなく、即効性のある内服薬が使用されます。
発作で病院・診療所を受診した際には注射薬をする場合もあります。
3.経口ステロイド薬
【代表的なお薬】 プレドニン、プレドニゾロン、メドロール、デカドロン
内服薬は喘息の発作時に使われます。
炎症の悪化を防ぎ、喘息の発作を抑える効果があります。
β2刺激薬では発作がおさまらない時や、中程度以上の発作の時に使用します。
4.抗コリン薬
【代表的なお薬】 アトロベント、テルシガン
気道を収縮させてしまうアセチルコリンという物質の働きを抑え、気道を広げ呼吸を楽にします。
短時間作用性β2刺激薬と一緒に使うケースもあります。
上記のようなお薬を使っても、喘息症状や発作治療薬の使用が週1回以上ある時は「喘息コントロール」がうまくいっていないということになります。
お医者さんと喘息コントロールの長期管理について再度相談し、必要であれば治療ステップを上げるなどの対応をとります。
(参考)藤田医院 喘息の薬
※こちらのページでは喘息薬のコントローラーとレリーバーについて分かりやすく解説されています。
(参考)チェンジ!喘息 喘息の発作がおきたときには
5.喘息治療はいつまで続く?治療の中断は難治性喘息への進行(リモデリング)も。
小児喘息の場合、5~7割が自然治癒すると言われていますが、大人の喘息の場合、完治は1割以下と言われています。
喘息は一度発症すると、一生付き合っていかなければならない場合も多いのです。
ですが、きちんと治療を行っていれば症状が出ない状態にキープする事は可能です。
喘息治療は症状の悪化や喘息発作の予防のためにも、「お薬を続けながら体調管理する」ことが重要なのです。
リモデリングの恐さとは!その時だけの治療は症状悪化の危険が。
これまで予防のための毎日の治療が必要と何度もお伝えしてきました。
もし、予防治療を行わなかった場合、どのようになってしまうのでしょうか?
毎日の治療をせず、発作時だけお薬を飲むという状態を繰り返していると、気道はますます敏感になってしまうので、さらに発作が起こりやすくなってしまうのです。
発作を繰り返すうちに、気道の壁はだんだん硬く厚くなり、ますます治りにくい難治性の喘息へと進行してしまいます。
これを「リモデリング」と言います。
この怖いリモデリングを防ぐためにも、吸入ステロイド薬による予防の治療を続けることが必要なのです。
「調子がいいから」と自己判断でお薬を止めることは大変危険です。
必ずお医者さんの指示に従いましょう。
(参考)チェンジ!喘息 喘息の治療法 治療しないとどうなる?
6.治療効果を上げるために。自分で出来る!生活習慣の見直しを。
いくら効果の高いお薬を使って治療していても、生活が乱れたままでは喘息は良くなりません。
お医者さんの指示を守ることはもちろんですが、自分で日頃の生活を見直すことも重要になります。
1.日常生活に気を付ける。
ストレスでも喘息は悪化することがあります。
睡眠不足になると疲労がたまり、体調を崩したり、アレルゲンに対しさらに敏感になることもあります。
適度な運動をする、好きな趣味に集中する、アロマテラピーなどうまく取り入れ、リラックスすることが大切です。
タバコの煙は気道の刺激になるので必ず禁煙するようにしましょう。
自分が吸っている煙だけでなく、仕事場や家族など周囲の人の副流煙にも注意してください。
2.体調に気を付ける。
風邪やインフルエンザなどのウイルス性の感染症になると、さらに気道の炎症は悪化します。
うがい手洗いをこまめに行い、マスクを着用する、ワクチンを接種するなどの対策をしましょう。
いきなり、激しい運動をすることは発作を引き起こす要因になりますが、ウォーキング、水泳、サイクリングなどはストレス発散にもなりますし、心肺機能を高め、体力もつくので発作の予防に役立ちます。
但し、準備運動をしっかりして、無理をしないように調整しながら行うことが大切です。
また、気温が低くなると発作を引き起こすことがあるので、冬は早朝の冷え込む時間は避けるようにしましょう。
3.アレルゲンや気道の刺激となる物質を減らす。
アレルギーによる喘息である「アトピー型喘息」はアレルゲンを吸い込むと症状が出てしまいます。
ダニやハウスダスト、ペットの毛などのアレルゲンを身の回りから排除すると発作の予防になります。
天気の良い日にはお布団を干す、掃除をする、空気を入れ替えることなどを心がけましょう。
忘れがちなエアコンはフィルターが汚れていると、ホコリなどをまき散らすことになるので、こまめに掃除をしましょう。
カーペットやじゅうたん、ぬいぐるみなどの布製品ははダニの温床となりやすいのでなるべく避けましょう。
生活している以上、アレルゲンをゼロにすることはなかなかできませんが、日頃からの注意が、ご自分の喘息の症状に大きく影響を及ぼすことを知っておくことはとても大切です。
体調の変化を見逃さないで。喘息の自己管理で万全の体制に!
これまでお伝えしてきたように、喘息はある程度、自分で症状をコントロールできる病気です。
毎日の体調の変化を記録する「喘息日記」、朝夕2回のピークフロー(最大呼気流量)測定して、自分の気道が今、どういう状態なのか常に気にかけるようにしましょう。
自分の体調を意識して毎日を送っているうちに、発作が軽くなったと気付く時が来るかもしれません。
喘息とうまく付き合い、症状を封じ込められるように、ぜひ生活の見直しにも取り組んでみてくださいね!
喘息の症状、喘息日記やピークフローメーターについては以下の記事で詳しく説明しています。
アレルギーやストレスも原因に!急な発作、激しい咳が続く「喘息」の症状とは?
(参考)藤田医院 喘息の日常生活の注意点